キスすらできない。


垣間見た寝顔にそんな感想を抱いてしまうと途端に混乱も沈静化してしまって。

無意識にも指先は先生の頬に触れていたのだ。

夫婦なのに寝顔が新鮮なんていうのも不思議なものだ。

でもまあ、寝室がこうして別であるのだから当然ともいえるのか。

普段は切れ長で、無表情も相まって睨んでいるかのような目元なのに。

なんて無防備な寝顔。

てっきり気配一つで目を覚ますタイプかと思っていたのに。

目を覚ますどころか気を許しきって油断しまくりな。

あ、マズイな。

なんか…可愛くて胸がぎゅっと…。

無防備さを開けっぴろげにされた歓喜もあるけれど、それ以前にだ。

まっすぐに…来てくれたのか。

倒れるように眠ってしまうくらい疲れていたくせに、直行したのは自室でなく私の部屋なのだ。

その行動一つで自分が求められていたのだと感じてしまう。

自分と同じに、もどかしく歯痒い感覚に苛まれていたのだと。

それだけでなんか…、

「…ま、いっか…」

そんな清算がついてしまうのだから。

とにかくと、少しは寝苦しくないようにとシャツのボタンとベルトだけは外しておく。

下敷きになっていた掛け布団をなんとか引き抜くと、自分と先生の上にかけ直す。
< 152 / 167 >

この作品をシェア

pagetop