キスすらできない。


ベッドの上で逃げるように後退した壁際に。

トンッと背中が壁にぶつかったのと、ギシリとベッドが軋んだのはほぼ同時。

あと、先生の顔が自分の顔面に寄ったのも。

ふわりと鼻孔を擽るのはシャンプー清潔な匂い。

だけど、そんな物に意識を引かれるのは一瞬だ。

一瞬後には自分の顔に絡み付いてきた手の感触に小さく震え。

唇を割るように入り込んでくる親指の感触に目を細める。

刹那、

「……口あけて」

「っ……」

そんな一言には耳の奥が溶解、同時に発熱。

脳内の混乱

なのに、無意識にも素直に言う事を聞いて口を開いてしまったのは、昔からの関係ゆえか。

先生に……逆らえる筈もないと本能に沁みついている。

この目に、この声に……

「…良い子、」

「っ___」

逆らえる筈ないし、

逆らいたいとも思えない。

開いた口から覗く歯にほんの少し先生の親指が掠める事にも目が眩む。

顔の距離もゆっくり近づいて…。

あっ……舌が……。

「…………………甘っ……い?」

これは……これまた予想外の衝撃。

あまりの予想外に目を大きく瞬かせてしまったくらいに。

そんな間にも口内に広がるトロリとした甘さが広がっているのだ。

これは……

「ボン…ボン?……柑橘系の……柚子っぽい」

「ん……正解。……美味しい?」

「美味しいです。……凄く、」

美味しい。

本当に美味しい。

でも……『美味しい?』じゃなくてさぁぁぁぁ。


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