キスすらできない。


「せ…先……」

「そんなものに慣れるな」

「……………え、」

「子供みたいにって……子供の時から泣きも喚きもしなかっただろう。いつだって『平気です』って笑顔で誤魔化して、仕方ない事だって我慢して我慢して………いつになったらヒステリックに自分を曝け出すんだ」

「っ……」

「聞き分けの良さが大人だと思ってるなら末期だな。それとも、コントロールできる程度の感情しか俺にはないか?」

「なっ…」

「相手の事情なんて関係ないってくらい食らいついてこいよ。みっともなく『何でだ!』って怒って泣き喚いて物わかり悪く縋りついてこいよ」

「そっ……だって……」

「日陽っ、」

「っ……!」

「………俺だけには……我慢するな。……覚えるな。……………そんな恋はいい加減忘れろ」

「だっ……て………」

「………どんな醜態晒そうが……大丈夫だ。……俺が帰るのは日陽の隣だ。……この先一生、」

だから言えと言わんばかり。

言葉を促すように唇をなぞる指先の感触にはジワリと身体が熱を持つ。

その熱が下から上へと昇り詰めて目頭まで到達してしまえばもう限界。

謝罪する姿を慰めていた筈が、どうしてこんな自分が追い詰められる流れになってしまったのか。

そんな小さな不満が良くも悪くも起爆剤となったらしい。

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