キスすらできない。


ポロリと零れた涙と同時、

「っ……なんで…」

「………」

「なんで先生の方が言いたい放題なんですか!?謝罪してたんじゃなかったんですか!?なのに、なんでこんな私が…追い込まれるみたいに責められてっ…」

「……言わせる日陽が悪い」

「何でですか!!普通に考えて嫌でしょ!?仕事で仕方ない事態で、ぐったり疲れて帰ってきたのに我儘な言い分爆発されるとか!『約束したのにっ!』とか『楽しみにしてたのにっ!』とか『折角、色々気合入れて準備してたのにっ!』とか……っ……とか…………ぐすっ……えっ?…………あれっ?」

単なる例え話としてあげたつもりが……。

これ、全部自分の事だ。

自分の昨夜のもどかしい感情の数々。

音にしないようにと飲みこんでしまいこんだ筈であったみっともない負の感情だ。

言ったところで単なる我儘。

あくまでも全部、自分の都合ばかりの我儘。

ほら見た事か、なんてみっともなくどうしようもない。

きっと、顔だってボロボロと大粒の涙を流して不細工極まりない。

こんな自分を晒して誰が得をする?

うっかり漏らしてしまった自分に冷静になりすぎて怯んだタイミングだ。

「……確かに……我儘だな」

「っ……あ……ごめ…なさ……」

「………我儘で……可愛い。」

「………へっ?」

「可愛すぎて………全部埋め合わせ以上に満たしてやりたくなる」

発せられた第一声にはビクッと心臓ごと体が跳ねあがったのに肩透かしだ。

不機嫌になったどころか…。

あっ……笑って……。

凄く……妖しく………どこか危険に。

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