キスすらできない。
男の人の顔だと今更な感想を持った刹那だ、先生の指先が自分の足の指先をそっと擽るように触れてきたのは。
直後にフッと聴覚を擽ったのは笑い声。
「分かってるよ。……いつもと少し違う部屋着も」
「っ…いつものは洗濯中で、」
「ピン止めのない髪も」
「ね、寝るのに邪魔だっただけです…」
「いつもと違う甘い匂いも、」
「っ…これは、」
「いつもと違って色づいてるつま先も」
「っ…」
「全部………俺の為の準備だ」
「っ……」
「こんな健気で可愛い準備を無下にしたんだ。もっと大馬鹿者だって喚いて詰ればいいんだよ日陽は」
「っ~~~」
ドロドロに甘い触れ方と追及。
全部全部気づかれていた自分の変化。
先生の指先が今も愛おし気に足の先を触れていて。
触り方がどこか視覚的にも扇情的で、それに追い打ちをかける様に耳の近くで柔らかくも妖しい声音を響かせるのだ。
これにはつい頑なで意地っ張りな性質も気が緩む。
緩むどころか無防備で、
そうして、そんな自分の状態を読んだかのように改めて、
「…我慢させて悪かった」
そんな一言を吹き込まれてしまえば。
「っ……先生の…馬鹿…」
「……よく、言えました」
自然と不満を零す事で完敗。
言ってみてもやっぱり子供じみた我儘。
そう思う一言なのに、ふわりと後ろ頭を撫でてきた手の感触は実に甘くて優しくて心地良い。
我儘に対して『よく言えた』だなんて変なの…。
なのに……なんでか嬉しい。
でもそうは思ってもそこは意地っ張りな自分だ。
口から零れるのは当然後者を省いた一言なのだ。
「先生って…変。我儘を褒めるって、」
「……褒めるべきだろう。リハビリの第一歩としては上出来だ」
「リハビリって…、私は何かの病人ですか?」
「日陽の意地っ張りはここまできたら病気みたいなものだろう。まさか恋愛にもその姿勢だとはね…。まだ若いのに聞き分けの良い恋に走ってどうする。もっとがむしゃらに体当たりな恋愛をしなさい」
「いや、がむしゃらと程遠い先生にその言葉を言われても説得力ないんですけど」
「先生はもうがむしゃら期通り越したバツイチアラフォー男だから。」
「嘘だ!絶対に通り越したっていってもスルーした方の通り越しですよね!?絶対にがむしゃらの『が』の字も経験してないでしょう!?」
万年ドライ男が何を語るか!
流石にそんな勢いのまま指をさしながら批判してみれば、珍しく眉尻下げてクックッと笑う先生の姿に返り討ち。