決して結ばれることのない、赤い糸
隼人はわたしを抱き寄せて、わたしはその腕の中で泣きじゃくった。


「かりん、ごめん…!なんで俺っ…、今までかりんのことを忘れてたんだろう。こんなにも好きだった人のことを…!」

「…いいの。隼人が思い出してくれたのなら…それでっ」


信じられなかった。

隼人が、すべての記憶を思い出してくれたなんて。


「…でも、どうして思い出せたの?もしかして、また頭を強く打ったんじゃ――」

「それは違うよ。だけど、かりんが階段から落ちるとき、“あのとき”の記憶が頭の中を駆け巡って、それで」


実際には、階段は5段ほどしか落ちていなかったらしい。

だから、どちらもかすり傷程度で済んだ。


だけど、あのときの状況と重なったことで隼人の記憶は蘇った。


「記憶喪失になってから、ずっとだれかを想ってた。でもこれではっきりした。それはかりんなんだって」
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