決して結ばれることのない、赤い糸
まるで、なにかから逃げるかのように。


無言の車内。

お母さんといっしょにいて、会話がないのは初めてのことだ。


「…さっき、どうしちゃったの?」


運転で前しか見ていないお母さんに目を向ける。


「え…?さっきって?」

「なんか、びっくりしたみたいに固まってたよね?」

「…ああ。ちょっと…昔の知り合いに似ていたから驚いただけ」

「そうなの?鷹さんが?」


その瞬間、急ブレーキがかかった。

あまりにも突然のことで、シートベルトをしていても体が前に持っていかれた。


「ちょっと…お母さん!急に止まったら危ないよ…!」


車通りの少ない山道だったからよかったものの、これが一般道だったら事故を招いていたかもしれない。


「ご…ごめんっ」


そう言って、お母さんはまたアクセルを踏んで車を走らせる。
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