決して結ばれることのない、赤い糸
鷹さんのお店の『Falcon』には、ほんのりとお香の香りが漂っている。

この前もそうだったし、中学1年生のときに行ったときもそうだった。


「いい匂いですね」という話を鷹さんとしたことがあったから間違いない。


「…そういえば!友達とお茶したカフェに、たしかお香が焚いてあったような…。その匂いじゃない?」


お母さんはそう言って、服を着替えに部屋へ行ってしまった。


たしかにお香は、べつにめずらしいものではない。


でも、鷹さんのお店のお香は、常連のお客さんが特別に調合した香りらしく、売られているものではなかった。

だから、同じものは2つと存在しない香りだ。


それが、お母さんの服から香った。


これは一体…どういうことなのだろうか。



買ってきたお惣菜をお皿に移し替えていると、着替えたお母さんが戻ってきた。
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