爽やかくんの為せるワザ
「……うん。ありがとう成瀬さん……」
長めな前髪の間から見える目が少し潤んでいるように見えた。
「……こちらこそ、言ってくれてありがとう……」
本当に本当に嬉しかった。
佐賀くんが私を好きになってくれて。
……今までの経験とか、そんなのもう関係ない。
だって、私……佐賀くんのことこんなに好きなんだもん。
友達として、人として。
皆の期待に応えたいって苦手なことに立ち向かって、
私の力になりたいって言ってくれて、
いつでも私を励ましてくれる。
……こんな素敵な人を嫌いになんてなれるわけないんだ。
でも、それが好きに直結するわけじゃないって今なら分かる。
だって、名前を呼ばれて胸が踊るのも、
手を繋ぎたいと思うのも、
私がずっと幸せにしたいって思うのも、
藍くんだけなんだ。
「……溺愛じゃん」
ぽつりと元カノさんが呟いた。
「……あはは。もう藍くんしか好きになれないと思う」
「それほぼプロポーズじゃん。……はー、なんかあんたには何やっても通用しない気するわ。
あーあ、盛大な惚気聞かされた気分ー」
大きく溜息を吐きながら元カノさんはスタスタと保健室のドアへ向かう。
そしてドアに手を掛けてそのままガラッと開いたその時。
「……うわっ!」
足元に視線を落として驚く元カノさん。
その様子にえっ、と私と佐賀くんもその視線の先を追った。
「……あ」
なんとそこには藍くんがいたのだった。