冷たいキスなら許さない
力が入らず小刻みに震える身体を櫂に支えてもらいながら、社長がいるはずの廊下の端のソファースペースに身体を向けた時、不意に櫂の唇が私の唇に掠るように触れた。

「なっ」

今、一瞬だったけど、唇、触れたよね。

偶然じゃない。わざとーーーだと思う。

顔を上げてきっと睨みつけると櫂の瞳が揺れた。

なんでそんな顔をするの。あなたがやったのにどうしてそんな顔をするの。
自分が傷ついたみたいな。

「灯里、おい、どうした!」

社長だ。ソファーではなく廊下の反対側から大和社長の声がする。

反射的に自分の身体を支えてくれているはずの櫂を押しのけて転がるように駆けだした。

「大和さん!」

こちらに向かって来る社長の胸に倒れ込むように駆け寄って、思わず社長の背広の胸元を正面からぎゅっと握りしめる。

「どうした、何があった」

私のただならぬ様子に社長の声も大きくなる。

「ちょっと・・・」
力が抜けそうな私の背中に社長の腕が回される。

「つかまれ」
「うん」

しがみついた私の背中を社長の腕が包み込む。
思わず社長の胸に顔をつけて密着した。
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