千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
枕元に黒縫、隣に黎――百鬼夜行を息子に任せるようになってからはこうして寝ることが当然になっていた澪は、夢を見た。
『‟魂の座”を探しているのは、お前だな?』
「あ…えっと…あなたは?」
『俺たちはお前が探している場所を管理している者だ。今一度確認するが、‟魂の座”を探しているんだな?』
――男はまばゆい金の髪と碧い瞳をした壮絶なまでに美しい男だった。
傍には朱い髪に赤い瞳といったこれまた見たことがない色合いの美女で、ふたりは目が眩むような白い外套に身を包み、澪に手を差し伸べた。
「あのっ、そうです!私…えっと…」
その手を取った澪は、足元に黒縫が居ることに気付いて心からほっとした。
『言わずとも分かる。この扉が見えるか?これを潜ればお前は現世では死ぬことになる。だが、‟魂の座”に辿り着いたお前にはひとつだけ願いを叶えることができる。ちゃんと決めてきたな?』
美女は一言も話さず、美男のよく通る低い声に聞き惚れながら、澪はもじもじして男を見上げた。
「あの、私…次に転生することがあったら…人になりたいんです」
『人…お前は妖であり、長い生が約束されていた。人の生は短いぞ。それでもいいというのか?』
「はい。私…ずっと人に興味があって、人と触れ合いたくて…その願いは大体叶ったんですけど、私自体が人になりたいんです。命が短くても構いません。短い生を精一杯生きて…全てを燃やしながら生きたい」
美男は美女と一瞬顔を見合わせて、ふっと微笑んだ。
その微笑を見て、ああ自分の願いは叶うのだと思った澪は、膝を折って黒縫の身体を抱きしめた。
「ほら、黒縫もお願いして」
『私は…私を転生した澪様のお傍に置いて下さい。どんな生き物でも構いません。ああでもなるべく長く生きられる方がいいかな…』
『分かった。お前たちの願いは叶う。本当にもう現世に悔いはないな?残してきた者たちに未練はないな?』
「私の思いはすべて黎さんの…私の旦那様の元に残してきたから大丈夫です。ね、黒縫」
男は碧い目を細めて微笑み、見上げてもその大きさが分からないような真っ白な観音扉を男がゆっくり押して開いてゆくのをどきどきしながら見ていた。
『次に転生するまで、ここでゆっくりしていくといい。稀にしか辿り着けぬ所までよく来た』
澪は黒縫の蛇の尻尾を握りながら扉を潜った。
――そうして、澪の妖としての長い生は…終わりを告げた。
『‟魂の座”を探しているのは、お前だな?』
「あ…えっと…あなたは?」
『俺たちはお前が探している場所を管理している者だ。今一度確認するが、‟魂の座”を探しているんだな?』
――男はまばゆい金の髪と碧い瞳をした壮絶なまでに美しい男だった。
傍には朱い髪に赤い瞳といったこれまた見たことがない色合いの美女で、ふたりは目が眩むような白い外套に身を包み、澪に手を差し伸べた。
「あのっ、そうです!私…えっと…」
その手を取った澪は、足元に黒縫が居ることに気付いて心からほっとした。
『言わずとも分かる。この扉が見えるか?これを潜ればお前は現世では死ぬことになる。だが、‟魂の座”に辿り着いたお前にはひとつだけ願いを叶えることができる。ちゃんと決めてきたな?』
美女は一言も話さず、美男のよく通る低い声に聞き惚れながら、澪はもじもじして男を見上げた。
「あの、私…次に転生することがあったら…人になりたいんです」
『人…お前は妖であり、長い生が約束されていた。人の生は短いぞ。それでもいいというのか?』
「はい。私…ずっと人に興味があって、人と触れ合いたくて…その願いは大体叶ったんですけど、私自体が人になりたいんです。命が短くても構いません。短い生を精一杯生きて…全てを燃やしながら生きたい」
美男は美女と一瞬顔を見合わせて、ふっと微笑んだ。
その微笑を見て、ああ自分の願いは叶うのだと思った澪は、膝を折って黒縫の身体を抱きしめた。
「ほら、黒縫もお願いして」
『私は…私を転生した澪様のお傍に置いて下さい。どんな生き物でも構いません。ああでもなるべく長く生きられる方がいいかな…』
『分かった。お前たちの願いは叶う。本当にもう現世に悔いはないな?残してきた者たちに未練はないな?』
「私の思いはすべて黎さんの…私の旦那様の元に残してきたから大丈夫です。ね、黒縫」
男は碧い目を細めて微笑み、見上げてもその大きさが分からないような真っ白な観音扉を男がゆっくり押して開いてゆくのをどきどきしながら見ていた。
『次に転生するまで、ここでゆっくりしていくといい。稀にしか辿り着けぬ所までよく来た』
澪は黒縫の蛇の尻尾を握りながら扉を潜った。
――そうして、澪の妖としての長い生は…終わりを告げた。