千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
数日…数週間経っても雨竜は建屋から出て来なかった。
まさか死んでいるのではと心配した良夜は何度も屋敷と建屋を行ったり来たりしていたが変化はなく、そうこうしているうちに神羅の悪阻はいよいよひどくなり、心配は増すばかりだった。
「神羅…俺に何かできることは…」
「ありません。大丈夫ですよ、悪阻で子が流れたりはしないそうですから」
「だが全然起きれないじゃないか。本当に大丈夫…」
――心配すぎてなお問い詰めていた所…突然何かが壊れるような轟音が鳴り響いた。
地響きと共に大地が揺れると、黎が眼光鋭く素早く立ち上がって轟音が聞こえた丘の方に行こうとすると、神羅がそれを呼び止めた。
「待って黎…私も連れて行って」
「それは無理だ」
「いいから連れて行って。雨竜の庇護者は私なんですからね」
言い出すと聞かない神羅と口論をする暇はなく、神羅を抱き上げた黎は、待っていた狼の背中に乗せて空を駆けた。
「あれだ良夜様!建屋が壊れて……え…あれ…雨竜か…?」
「すごいな…あれの父より大きいんじゃないか?」
――雨竜が籠もっていた建屋は木っ端みじんに吹き飛び、その中心には尾と首がひとつだけの緑色の巨体の九頭竜…雨竜が舌をちろちろさせながら立っていた。
本来の金色の目は赤銅色に光り、我を忘れている状態の雨竜は空中で留まっている黎たちを見つけると、口を大きく開いた。
喉の奥に光が集中しているのを見た黎が狼の腹を軽く蹴ると、狼は空中で素早く旋回してその軌道から離れた。
直後――収束した炎が一直線に空を突き抜けて雲を一瞬にして吹き消すと、黎はぞっとしつつわくわくして目を輝かせた。
「かっこいい」
『またそれを言うか小僧。油断すると消し炭になるぞ』
天叢雲に呆れられつつも、獲物を定めた雨竜がまた口を開いたのを見て思案。
「さてどうするべきか」
殺すという選択肢はない。
考えていると、心配が頂点に達した神羅が――口を開いた。
まさか死んでいるのではと心配した良夜は何度も屋敷と建屋を行ったり来たりしていたが変化はなく、そうこうしているうちに神羅の悪阻はいよいよひどくなり、心配は増すばかりだった。
「神羅…俺に何かできることは…」
「ありません。大丈夫ですよ、悪阻で子が流れたりはしないそうですから」
「だが全然起きれないじゃないか。本当に大丈夫…」
――心配すぎてなお問い詰めていた所…突然何かが壊れるような轟音が鳴り響いた。
地響きと共に大地が揺れると、黎が眼光鋭く素早く立ち上がって轟音が聞こえた丘の方に行こうとすると、神羅がそれを呼び止めた。
「待って黎…私も連れて行って」
「それは無理だ」
「いいから連れて行って。雨竜の庇護者は私なんですからね」
言い出すと聞かない神羅と口論をする暇はなく、神羅を抱き上げた黎は、待っていた狼の背中に乗せて空を駆けた。
「あれだ良夜様!建屋が壊れて……え…あれ…雨竜か…?」
「すごいな…あれの父より大きいんじゃないか?」
――雨竜が籠もっていた建屋は木っ端みじんに吹き飛び、その中心には尾と首がひとつだけの緑色の巨体の九頭竜…雨竜が舌をちろちろさせながら立っていた。
本来の金色の目は赤銅色に光り、我を忘れている状態の雨竜は空中で留まっている黎たちを見つけると、口を大きく開いた。
喉の奥に光が集中しているのを見た黎が狼の腹を軽く蹴ると、狼は空中で素早く旋回してその軌道から離れた。
直後――収束した炎が一直線に空を突き抜けて雲を一瞬にして吹き消すと、黎はぞっとしつつわくわくして目を輝かせた。
「かっこいい」
『またそれを言うか小僧。油断すると消し炭になるぞ』
天叢雲に呆れられつつも、獲物を定めた雨竜がまた口を開いたのを見て思案。
「さてどうするべきか」
殺すという選択肢はない。
考えていると、心配が頂点に達した神羅が――口を開いた。