千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
悪阻の時期はつらくて苦しいものだったけれど、安定期に入ると驚くほど楽になって、床に臥せることもなくなった。

成体になった雨竜はちょくちょく百鬼夜行について行くようになり、義母たちは義父と共に体調を心配して一緒に住んでくれていたため、寂しくはなかった。


そして明け方黎が戻って来ると、一緒にひとつの床について冒険譚を聞いて、眠った。

そんな日々の中で――以前そうだったように、黎と同じ夢を見た。


『母様…父様…』


「!桂…桂なのですね!?ああ…私の桂…」


居住まいを正してにこっと笑ったかつての我が子――桂と久々に会えて嬉しくなった神羅が駆け寄ると、桂は神羅をふわりと抱きしめて言葉もない黎を見上げて苦笑した。


『勝手に家を出て、勝手に死んでしまって申し訳ありませんでした』


「いや…桂…お前にまた会えるなんて…」


ほぼ絶句してしまった黎に頬を緩めた桂は、黎とそっくりな笑顔でまた笑うと、抱き着いて離れない神羅の背中を撫でた。


『母様、また会いに行きます。だから寂しがらないで』


「え…?桂、それはどういう意味…」


『俺と分かるように目印をつけますから。父様、母様をお願いします』


「分かった。桂、お前に会えるのを楽しみにしているからな」


はい、と返事をした桂がそっと離れると、神羅は名残惜しくて手を伸ばした。

桂はそんな神羅にずっと手を振っていた。


「っ!桂…、桂…っ」


「神羅、落ち着け…。今…同じ夢を見ていたのか?桂が‟また会える”と言って…」


「!そうです!目印をつけると…!」


予感がした。

桂もまた、輪廻の輪に加わることができたのだ、と。

そしてまた会える日が来ることを。
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