千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
日が経つにつれみるみる腹が大きくなった神羅は、それを楽しんでいた。

前世での時は独りで不安に耐えながら産んだため、傍に黎が居てくれるだけで安心していたのだが…

肝心の黎は、百鬼夜行で留守の間に産気づくのではないかと家業に出ることを渋り、神羅から雷を落とされていた。


「黎、お主は私との約束を守ってくれるのでしょう?行きたくないとはどういうことですか?」


「いや、だって…今度こそは産まれる瞬間に立ち会おうと…」


「立ち会わずともお主はこの子の父です。だからちゃんと務めを果たして来て下さい」


そう語気を荒げた時――腹がずきりと痛んだ。

思わず顔をしかめると、黎が腰を浮かして血相を変えて神羅の身体を支えた。


「どうした!?」


「いえ、ちょっと痛んだだけですから」


「それがおかしいと言ってるんだ!早く横に…」


ずきずきずきっ。

その痛みには覚えがあり、さすがにこれはやばいと感じた神羅は黎の袖を握って唇を噛み締めた。


「黎…っ、陣痛が…!」


「!?産み月にはまだひと月もあるぞ!誰か!産婆を!」


異変に気付いた狼がすぐさま産婆を呼びに行き、黎の母たちが出産の準備を始めると、実の母ににっこり笑いかけられた。


「…?」


「明、これから子が産まれるまであなたにできることはありません。邪魔にならぬよう隅の方に居なさい」


「だが俺は…」


「邪魔になる、と言っているのですよ。子を産むのは命懸けなのです。さあ早く隅の方に!」


――邪険にされても神羅が陣痛に苦しんでいる表情が頭から離れず、黎は神羅の傍にどっかり腰を下ろしてその手を握った。


「もうこの子は全く…」


呆れられたが、離れるつもりはなかった。
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