千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
前世では澪の出産には立ち会えた。
澪は安産で、陣痛がきてから意外に早く産まれたものの――神羅は長引いていた。
日が暮れても産まれて来る気配はなく、黎は頑強に傍を離れることを拒み、母たちに説得されていた。
「明、あなたが居ても居なくても一緒ですからちゃんとお努めをですね…」
「一緒なら傍に居る。百鬼夜行を継ぐ子が産まれるんだ。離れるわけにはいかない」
神羅も苦しみつつ黎を行かせようとしたが、以前桂を産んだ時とは何かが違う。
早産なのには間違いないし、腹の中でなんだか…子が引っかかっているような感じがしてそれを黎に訴えた。
「黎…、お腹の中が変だわ…どうしよう…っ」
「どう…いう…意味だ?」
それを聞いた妖の女の産婆は、神羅の足元で腹に手をあてたり直診をして顔を曇らせた。
それを見た黎も思わず腰を浮かし、その言葉を待った。
「逆子…でございます」
「逆子!?それはなんだ!?」
「頭からではなく、足から子が出て来ようとしております。そうなれば呼吸が危うくなり…死産になることも…」
――前回の検診では逆子とは言われなかったため安心しきっていた黎と神羅は、顔を見合わせて手を握り合った。
「黎…!怖いわ…!」
「大丈夫だ、俺がついている。神羅…」
ふたりで呼吸を合わせた。
神羅の陣痛は強くなったり弱くなったりを繰り返しているものの子が出てくる気配はなく、難産が予想された。
「今夜はどこにも行かない。子が産まれるまでここに居る」
「まあそう言うと思っていた」
朗らかな声が聞こえて振り返った黎は、様子を見ていた父が腰を上げたのを見上げた。
「親父…?」
「俺が代行で行こう。いやなに、まだ鈍ってはいない。美月殿の傍に居てやりなさい」
「すまない」
父は軽く手を挙げて障子を開けると、待っていた百鬼たちと共に代行で百鬼夜行に出てくれた。
「うぅ…っ」
「神羅…!」
神羅が爪を立ててきた。
黎はその手を離さず、励まし続けた。
澪は安産で、陣痛がきてから意外に早く産まれたものの――神羅は長引いていた。
日が暮れても産まれて来る気配はなく、黎は頑強に傍を離れることを拒み、母たちに説得されていた。
「明、あなたが居ても居なくても一緒ですからちゃんとお努めをですね…」
「一緒なら傍に居る。百鬼夜行を継ぐ子が産まれるんだ。離れるわけにはいかない」
神羅も苦しみつつ黎を行かせようとしたが、以前桂を産んだ時とは何かが違う。
早産なのには間違いないし、腹の中でなんだか…子が引っかかっているような感じがしてそれを黎に訴えた。
「黎…、お腹の中が変だわ…どうしよう…っ」
「どう…いう…意味だ?」
それを聞いた妖の女の産婆は、神羅の足元で腹に手をあてたり直診をして顔を曇らせた。
それを見た黎も思わず腰を浮かし、その言葉を待った。
「逆子…でございます」
「逆子!?それはなんだ!?」
「頭からではなく、足から子が出て来ようとしております。そうなれば呼吸が危うくなり…死産になることも…」
――前回の検診では逆子とは言われなかったため安心しきっていた黎と神羅は、顔を見合わせて手を握り合った。
「黎…!怖いわ…!」
「大丈夫だ、俺がついている。神羅…」
ふたりで呼吸を合わせた。
神羅の陣痛は強くなったり弱くなったりを繰り返しているものの子が出てくる気配はなく、難産が予想された。
「今夜はどこにも行かない。子が産まれるまでここに居る」
「まあそう言うと思っていた」
朗らかな声が聞こえて振り返った黎は、様子を見ていた父が腰を上げたのを見上げた。
「親父…?」
「俺が代行で行こう。いやなに、まだ鈍ってはいない。美月殿の傍に居てやりなさい」
「すまない」
父は軽く手を挙げて障子を開けると、待っていた百鬼たちと共に代行で百鬼夜行に出てくれた。
「うぅ…っ」
「神羅…!」
神羅が爪を立ててきた。
黎はその手を離さず、励まし続けた。