転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
「ていうか景品めっちゃ持ってません?……店主さん、泣いてますよ」

屋台をこっそり指差すと、両腕いっぱいに景品の山を抱えた王子殿下はふんと鼻を鳴らした。

「そうか?遠慮してやったんだがな」

嘘つけ。あなたは手加減とかできなそうじゃないですか。

「……なんだ?」

私のじとっとした視線に気がついたのかグイード殿下がこちらを向く。それになんでもないですと慌てて顔の前で手を振った。

「それ、どうするんですか?そんなに持って歩くつもりですか?」

「まさか。これから行く所に置いていく」

ついてこい、と迷いなく歩き始めるグイード殿下の後を追いかける。行く所に置いていくということは荷物を預けられるような場所があるんだろうか。さすが王都、観光地っぽい雰囲気を醸し出しているだけある……

と思っていたのだけれど。王子殿下はメインストリートから外れた横道に入っていく。不安になった私は堪らず早足に前に出てグイード殿下の顔を覗き込んだ。

「あのっ、どこに行くんですか」

「行けばわかる……ほら、見えてきたぞ」

顎をしゃくられて視線を前に向けるとアイボリー色の住宅にしては少し大きめな建物が見えた。華美な装飾は無いし、質素な外観だ。それでも何となくあたたかい感じがするのはなぜだろうか。

グイード殿下が呼び鈴を鳴らすと中から幾つもの忙しない足音がして、慄く私の前で勢い良く扉が開いた。

こちらを見上げる小さな顔が並んでいる。年齢はバラついているように見える。2、3歳から6、7歳くらいまでだろうか。

「……だぁれ?」

「ええっと……」

大きな瞳でじっと見つめられてたじろぐ。一体これは何事だ。

小さな子ども達の後ろから一人の女性が出てきた。50歳前後くらいに見える。一重の目は彼らに優しそうな視線を注いでおり、唇は柔らかく笑んでいた。寄ってくる子ども達の頭を撫でながら、彼女の緑の目がこちらを見る。

「いらしてくださったのですね。お忙しいかと思いずっとお招きしておらず申し訳ございません」

言葉は隣の王子に向けられているようだった。私も彼の顔を見つめた。
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