ただ好きだから


「そうか」とどこか興味なさ気に言われた所で丁度ハンバーグが運ばれてきて、その話は途中で終わった。


ハンバーグを食べ終えた後は苺のタルトを食べた。咲夜に「食べないの?」と聞いたけれど「甘いの好きじゃねェんだよ」と言われて彼はホットコーヒーを黙々と飲んでいた。


そういえば、家でお手伝いさんが作ってくれたデザートを食べてるの見た事ないかもしれない。
いつもその残りが冷蔵庫に入ってて、こっそり私が食べちゃってたけれど、これからは遠慮なく食べても良いのかとそう思った。


レストランを出てからは何故か夜景を見た。
まるで大人のデートコースみたいで、やけにドキドキした。

見ていた時間は多分五分くらいだったけど、それでもこんな女性扱いしてもらうのはいつぶりか分からないほど久々で、ドキドキしない方が無理だった。


夜景を見ながら咲夜はポケットから取り出した小さな箱を私に渡す。

それはもちろん指輪の小さくて高級感のある綺麗な箱。

「休みの日はちゃんと付けとけよ」とどこか俺様気に言われて、不覚にもその横顔がカッコイイなんて思ってしまいそうになったけど、休みの日というワードと、指輪をはめてもらうどころか箱のまま渡されて、ここが私達の境界線なんだ、偽婚約者と本命の違いなんだと思うと、少し心にポッカリと穴が開いたようだった。


別に私にそんな事を思う権利なんてないのに。

私達は偽りの恋人で、それ以上でもそれ以下でもないのに。


今日一日デートみたいな事をして、そんな気分になっちゃったから、少し雰囲気に流されてたのかもしれない。

何でもないはずなのに、少し本当の恋人になったような気分になっちゃってただけなのかもしれない。

ドラマを見て主人公に感情移入しちゃうみたいなヤツだったのかもしれない。

< 65 / 66 >

この作品をシェア

pagetop