限定なひと

「だーかーらっ、ごめんって、いってるじゃないのぉ」
「あー……、はぁ」
「あーあー言ってんじゃないわよ。もう、いいから、飲んで!」
「いやいや、俺、今日は車ですし。ハンドルキーパーですし」
「はぁ? 何言ってんのぉ?」
「あー、はいはい」
「はいは、みっつでいいっ!」
「はぁ? そこは一つでしょう?」
「いーえ、ちがいますぅ! みっつでぇすっ!」
「あー、はいはいはい。これでいいですか?」
「よぉーしよしよし! いい子だ、ハウスぅっ!」
「はぁっ!? 何ですかそれ。……つか俺、まさかの犬ポジションですかっ!?」
 こんな無益なやり取りを延々繰り返している私は、いい塩梅で酒にほだされていた。元々弱いくせに、更に酒癖も少々(?)悪いのは重々承知のこと。だから本当に仲の良い人と飲む時以外は、基本、お酒は一杯だけ。ちゃんぽんは絶対しないと決めている。
 だけど今日は失敗。グラスのビール一杯に梅酒サワー二杯の計三杯。私的には完全に飲み過ぎだ。
「ちょ、ちょっと。こんな所で寝られても困りますよっ」
 彼の声を少し遠くに感じつつ、どうしてこんなに楽しくて仕方がないのか、酔いで鈍る頭をフル回転させて考える。
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