しあわせ食堂の異世界ご飯2
街の広場では、山でキノコを狩った人たちが帰ってきて賑やかだ。
手のひらサイズのものを持った人が注目を浴びる中、セレスティーナが自身の顔ほどのキノコを見せてさらに観客からの視線を集めている。
楽しそうな人たちとは裏腹に、カミルは落ち着かない。
「母さん、大丈夫かな? いくらなんでも、アリア遅くないか?」
このままだと、終了の鐘がなって失格になってしまう。
慌てている息子を見て、カミルは「大丈夫だよ、心配性だねぇ」と苦笑する。
「男ならどーんと待ってればいいじゃないかい。アリアちゃんはあんなに優勝したいって言ってたんだから、ちゃんと制限時間内に戻ってくるさ」
「そりゃあ、そうだろうけどさ……」
何か事件に巻き込まれた可能性だってあるから、カミルは心配なのだ。
ざっとほとんどの参加者たちが戻って来ているのを確認し、司会者が『そろそろ時間ですね』と告げる。
『鐘が完全になり終えたら勝負は終了でーす! まだ広場に到着してなくて街中にいる人は、急いでくださいねー!!』
そう言うと、広場の鐘がゴ~ンと音を立てて街中に鳴り響いた。
セレスティーナとシンシアの姿はあるけれど、いまだにアリアの姿はない。勝ち誇った様子のセレスティーナは、満面の笑みを浮かべている。
「あああぁっ! これって鐘の音じゃないですか、急がないと」
「絶対に間に合わせないと!!」
ちょうど街の門を通り抜けたアリアとシャルルは、終了の合図である鐘がなっていることに気づく。
早くしないと、せっかく巨大椎茸をゲットしたのに失格負けになってしまう。
担がれた状態で焦るアリアと、さらにスピードを上げるシャルル。
街中を歩いている人たちは、なんだなんだと注目する。そしてアリアに括りつけられているキノコを見て、ぽかんと口を開いて指をさす。
「なんだあのキノコ」
「椎茸か? すげえな」
「しあわせ食堂のアシアとシャルルじゃないか?」
「あ、本当だ! 応援しようぜ!!」
そんな声とともに、街の住民たちがシャルルの後に続いて駆けだした。ドドドドドという地響きは、大会の会場がある広場まで簡単に届いてしまう。
『い、いったい何の音でしょう!? というか、地面が揺れている……!?』
司会者が慌てるが、すぐに広場から見える場所にシャルルが現れた。
『んん? 巨大キノコ……いや、違う、女の子がこちらへ走ってくるぞ!!』
一斉に、会場にいる人たちがアリアに注目する。カミルはすぐにそれがアリアだということに気づき、「アリアー! シャルルー!」と大声で名前を叫ぶ。
すると、しあわせ食堂を知っている人たちが次々にアリアたちの名前を呼ぶ。特にシャルルは明るく可愛い給仕担当なので、男性客からの人気もあってその声は大きい。
「ただいまもどりました!」
『これは時間ギリギリだけど、セーフです!!』
鐘のゴーンとなり終わる一秒前に、シャルルは広場へと無事に戻ってくることができた。
さすがのシャルルも息を切らしているが、それ以上に担がれていただけのアリアが息を切らしている。走るどころか歩いていないのになぜ? と疑問に思うかもしれないけれど、精神的に疲れているのだから仕方がない。
アリアはシャルルに降ろしてもらい、ほっと胸を撫でおろす。
そして収穫してきた巨大椎茸を高らかに持ち上げ、自分が優勝であるということを示す。
もちろんこの場に、アリア以上に大きなキノコを持っている人はいない。
『これはすごい! まさに椎茸の王様か!? これ以上の椎茸を持っている人はいないので、審査するまでもなく優勝だ~~っ!!』
ハイテンションな司会者の声に、会場中がわああと盛り上がり、アリアとシャルルに拍手を送る。
そしてすぐに、表彰式の準備が始まった。
アリアが用意が整うのを待っていると、セレスティーナとシンシアがやってきた。
ふたりともその手にキノコを持っているが、アリアのキノコと比べてしまうとかなり小さい。
「まさか、アリア様があんなに大きな椎茸を持って帰ってくるとは思いませんでしたわ。絶対にわたくしが優勝すると思いましたのに」
「わたくしの完敗……」
思いのほか素直に、ふたりが敗北を認めた。
アリアとしては、これ以上厄介ごとになると嫌なので嬉しいことこのうえない。そして、堂々とリベルトの妃になることを認めてもらえたのだ。
これで、しあわせ食堂のアリアではなく、エストレーラの王女アリア・エストレーラとしてリベルトと会うことができる。
嬉しそうにしているアリアとは対照的に、セレスティーナの瞳には涙が浮かぶ。
「あぁ、悔しいですわ。世界で一番リベルト陛下をお慕いしているのは、わたくしですのに……」
「セレスティーナ様?」
まさか、涙を見るなんて思わなかった。
大国の王族同士の婚姻なのだから、てっきりセレスティーナは政略結婚だと割り切っていると……アリアはどこかで考えていた。
(でも、涙が出るほどリベルト陛下のことが好きだったなんて)
少し、アリアの胸が痛む。
「子供のころ、リベルト陛下にお会いしたとき決めたの。わたくしはきっと、この方の妃になるのだと……」
「セレスティーナ様は、リベルト陛下とお会いしたことがあったのですね」
「ええ。まだ幼いわたくしに、とても優しくしてくださいましたの」
だから今回、こうして妃候補としてジェーロにやって来たのだという。
「アリア様、確かにあなたにも王妃の器があるようね。けれど、それはわたくしだって同じことよ。先に陛下へお目通りするのがアリア様だとしても、わたくしも陛下に選んでいただく自信があるわ!」
「え……」
「民衆からの支持を得ているからといって、勝った気にならないでちょうだい!」
セレスティーナの主張に、あきれを通り越していっそ関心してしまう。
確かに思い出してみると……勝った人間が妃として相応しいけれど、負けたからどうこうしろという勝負ではなかった。
(それほど、リベルト陛下をお慕いしているのよね)
アリアより先にリベルトへ謁見することはないが、陛下に臨まれたら妃になるということだろう。まあ、その主張は間違ってはいないが……。
アリアはリベルトではないので、セレスティーナにどうこう告げるつもりはない。そりゃあ、ちょっとは妬いてしまうけれど。
「わたくしも、精いっぱい頑張るだけです」
そうアリアが微笑むと、タイミングよく司会者から『表彰式です』と声がかかった。
手のひらサイズのものを持った人が注目を浴びる中、セレスティーナが自身の顔ほどのキノコを見せてさらに観客からの視線を集めている。
楽しそうな人たちとは裏腹に、カミルは落ち着かない。
「母さん、大丈夫かな? いくらなんでも、アリア遅くないか?」
このままだと、終了の鐘がなって失格になってしまう。
慌てている息子を見て、カミルは「大丈夫だよ、心配性だねぇ」と苦笑する。
「男ならどーんと待ってればいいじゃないかい。アリアちゃんはあんなに優勝したいって言ってたんだから、ちゃんと制限時間内に戻ってくるさ」
「そりゃあ、そうだろうけどさ……」
何か事件に巻き込まれた可能性だってあるから、カミルは心配なのだ。
ざっとほとんどの参加者たちが戻って来ているのを確認し、司会者が『そろそろ時間ですね』と告げる。
『鐘が完全になり終えたら勝負は終了でーす! まだ広場に到着してなくて街中にいる人は、急いでくださいねー!!』
そう言うと、広場の鐘がゴ~ンと音を立てて街中に鳴り響いた。
セレスティーナとシンシアの姿はあるけれど、いまだにアリアの姿はない。勝ち誇った様子のセレスティーナは、満面の笑みを浮かべている。
「あああぁっ! これって鐘の音じゃないですか、急がないと」
「絶対に間に合わせないと!!」
ちょうど街の門を通り抜けたアリアとシャルルは、終了の合図である鐘がなっていることに気づく。
早くしないと、せっかく巨大椎茸をゲットしたのに失格負けになってしまう。
担がれた状態で焦るアリアと、さらにスピードを上げるシャルル。
街中を歩いている人たちは、なんだなんだと注目する。そしてアリアに括りつけられているキノコを見て、ぽかんと口を開いて指をさす。
「なんだあのキノコ」
「椎茸か? すげえな」
「しあわせ食堂のアシアとシャルルじゃないか?」
「あ、本当だ! 応援しようぜ!!」
そんな声とともに、街の住民たちがシャルルの後に続いて駆けだした。ドドドドドという地響きは、大会の会場がある広場まで簡単に届いてしまう。
『い、いったい何の音でしょう!? というか、地面が揺れている……!?』
司会者が慌てるが、すぐに広場から見える場所にシャルルが現れた。
『んん? 巨大キノコ……いや、違う、女の子がこちらへ走ってくるぞ!!』
一斉に、会場にいる人たちがアリアに注目する。カミルはすぐにそれがアリアだということに気づき、「アリアー! シャルルー!」と大声で名前を叫ぶ。
すると、しあわせ食堂を知っている人たちが次々にアリアたちの名前を呼ぶ。特にシャルルは明るく可愛い給仕担当なので、男性客からの人気もあってその声は大きい。
「ただいまもどりました!」
『これは時間ギリギリだけど、セーフです!!』
鐘のゴーンとなり終わる一秒前に、シャルルは広場へと無事に戻ってくることができた。
さすがのシャルルも息を切らしているが、それ以上に担がれていただけのアリアが息を切らしている。走るどころか歩いていないのになぜ? と疑問に思うかもしれないけれど、精神的に疲れているのだから仕方がない。
アリアはシャルルに降ろしてもらい、ほっと胸を撫でおろす。
そして収穫してきた巨大椎茸を高らかに持ち上げ、自分が優勝であるということを示す。
もちろんこの場に、アリア以上に大きなキノコを持っている人はいない。
『これはすごい! まさに椎茸の王様か!? これ以上の椎茸を持っている人はいないので、審査するまでもなく優勝だ~~っ!!』
ハイテンションな司会者の声に、会場中がわああと盛り上がり、アリアとシャルルに拍手を送る。
そしてすぐに、表彰式の準備が始まった。
アリアが用意が整うのを待っていると、セレスティーナとシンシアがやってきた。
ふたりともその手にキノコを持っているが、アリアのキノコと比べてしまうとかなり小さい。
「まさか、アリア様があんなに大きな椎茸を持って帰ってくるとは思いませんでしたわ。絶対にわたくしが優勝すると思いましたのに」
「わたくしの完敗……」
思いのほか素直に、ふたりが敗北を認めた。
アリアとしては、これ以上厄介ごとになると嫌なので嬉しいことこのうえない。そして、堂々とリベルトの妃になることを認めてもらえたのだ。
これで、しあわせ食堂のアリアではなく、エストレーラの王女アリア・エストレーラとしてリベルトと会うことができる。
嬉しそうにしているアリアとは対照的に、セレスティーナの瞳には涙が浮かぶ。
「あぁ、悔しいですわ。世界で一番リベルト陛下をお慕いしているのは、わたくしですのに……」
「セレスティーナ様?」
まさか、涙を見るなんて思わなかった。
大国の王族同士の婚姻なのだから、てっきりセレスティーナは政略結婚だと割り切っていると……アリアはどこかで考えていた。
(でも、涙が出るほどリベルト陛下のことが好きだったなんて)
少し、アリアの胸が痛む。
「子供のころ、リベルト陛下にお会いしたとき決めたの。わたくしはきっと、この方の妃になるのだと……」
「セレスティーナ様は、リベルト陛下とお会いしたことがあったのですね」
「ええ。まだ幼いわたくしに、とても優しくしてくださいましたの」
だから今回、こうして妃候補としてジェーロにやって来たのだという。
「アリア様、確かにあなたにも王妃の器があるようね。けれど、それはわたくしだって同じことよ。先に陛下へお目通りするのがアリア様だとしても、わたくしも陛下に選んでいただく自信があるわ!」
「え……」
「民衆からの支持を得ているからといって、勝った気にならないでちょうだい!」
セレスティーナの主張に、あきれを通り越していっそ関心してしまう。
確かに思い出してみると……勝った人間が妃として相応しいけれど、負けたからどうこうしろという勝負ではなかった。
(それほど、リベルト陛下をお慕いしているのよね)
アリアより先にリベルトへ謁見することはないが、陛下に臨まれたら妃になるということだろう。まあ、その主張は間違ってはいないが……。
アリアはリベルトではないので、セレスティーナにどうこう告げるつもりはない。そりゃあ、ちょっとは妬いてしまうけれど。
「わたくしも、精いっぱい頑張るだけです」
そうアリアが微笑むと、タイミングよく司会者から『表彰式です』と声がかかった。