しあわせ食堂の異世界ご飯2
 ほかほかの雑炊には、たっぷりの大根おろしと大根の葉が入っている。シャルルが収穫したハレル茸のピンク色がアクセントになっていて、見た目が少し可愛らしい。
 その上からふわりとした半熟の卵がかかっていて、包み込んでいるようだ。
 シャルルはできあがった雑炊を見て、きゅるるる~とお腹を鳴らす。でもまずは、自分よりも優先しなければいけない人がいる。
「早くリントさんに持っていってあげてください。私はここで食べるので、何かあれば呼んでください」
「ありがとう、シャルル」
 シャルルはアリアとリントをふたりきりにしてくれるようで、その好意に甘えさせてもらうことにする。
 アリアはリントの分と自分の分をそれぞれ小さな土鍋に入れて、お茶と一緒にトレイに載せる。
「何かあれば起こすから、シャルルも食べ終わったらちゃんと休んでね」
「はい。おやすみなさい、アリア様」
「おやすみなさい」
 夜の挨拶をして、アリアは厨房を後にした。


 足音を立てないように、ゆっくり階段を上がって二階にある自分の部屋へ向かう。エマとカミルはもう寝ているようなので、起こさないよう静かにドアをノックする。
 すぐに、中から「どうぞ」とリントの声がした。
(よかった、意識もはっきりしてるみたい)
 シャルルから話は聞いていたけれど、実際目にするまではやっぱり安心できない。アリアはそっとドアを開けて、ベッドにいるリントを見る。
「……アリア。迷惑をかけてしまって、すまない」
「いいえ。リントさんが無事でよかったです」
 みぞれ雑炊を一度机の上に置いて、アリアはベッドの端に腰かける。リントは先ほどと違って呼吸も正常になっているので、落ち着いてきたのだろう。
 安堵するアリアとは逆に、リントは顔を少し伏せた。
「リントさん?」
 少しピリッとした空気をリントから感じて、アリアは焦る。
 何か不快にするようなことをしてしまっただろうか。
「……俺が迎えに来るまでは、あまり関りを持たないでほしいんだ。正直、他人がいると計画が狂って困る」
 リントの冷たい物言いに、アリアはかっとなる。
「! そ、そんな言い方しなくてもいいじゃないですか!」
 アリアは声を荒らげて、首を振る。久しぶりに会えたのに、そんなことを言われたらどうしていいかわからない。
(会いたいと思っていたのは、私だけだったの……?)
 東南地区の路地でうずくまったリントを見つけたときは、心臓が握りつぶされたかのようだった。
 きっとシャルルがいなければ、ちゃんとした判断もできなかっただろう。
 それほどに、アリアは動揺していた。
「もし私がいなかったら、リントさんはどうなっていたか……」
「……ローレンツがあの場所へ来る予定だったから、問題はない」
 リントとローレンツそれぞれ別行動をしていたけれど、合流する予定だったのだと言う。
「そう……だったんですか」
 けれどふと……これは本当にリントの本心だろうかとい疑問が浮かぶ。
< 52 / 68 >

この作品をシェア

pagetop