水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
(確かに……ちょっと、碧兄ちゃんみたいだったかも)

 本番後で気が抜けたのか、波音はその場に膝から崩れ落ちた。渚が慌てて支え起こしてくれるが、既に足腰に力が入らなくなっている。

「波音、少し休みましょう」
「……はい」

 渚に連れられ、数日ぶりに医務室のベッドへと運ばれた波音は、そこで休憩をとることにした。渚から水の入ったグラスを手渡され、飲めるだけ飲んだ。喉が乾いていたようだ。

「この前も言ったけど、滉の言ったことは気にしなくていいからね」
「……はい。でも正論なので」
「ほんと、あんたは生真面目ね。肩の力を抜くぐらいがちょうどいいわよ?」
「それじゃ、だめなんです。成功できなかったから……」

 渚は椅子に座り、波音と向き合った。きらきらと金色に輝く髪が一房揺れ、目に眩しい。

「力みすぎたから、成功しなかったのよ。『失敗したくない』『やるしかない』って、念じたでしょ?」
「ど、どうして分かるんですか?」
「あんたみたいな団員を、今まで何人も見てきたからよ。波音の努力の跡を知ってるから、碧も怒らなかったんだと思うわ。それにしたって、気持ち悪いくらい優しかったけど……」

 波音はぎくりとした。渚は、波音と碧の関係性の変化に気付いたかもしれない。

 聞かれる前に本当のことを言ってしまおうか、と波音が逡巡《しゅんじゅん》していると、先に渚が口を開いた。
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