水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
違う浜に連れて来られたのかと疑ったが、それでもまだ日中だ。人気《ひとけ》が全く無いなど、あり得るのか。
驚き言葉を失う波音をよそに、男は歩き出した。大人一人運ぶのにはそれなりの力が要るはずだが、その動きは軽々としている。相当な筋力の持ち主のようだ。
「海岸は遊泳禁止のはずだ。お前、どうやって入った?」
「ゆ、遊泳禁止!? そんなはずないです! 私はジムのみんなと一緒で、他のお客さんだってたくさんいましたし……」
「じむ? 客? 何を言っている……? 溺れて頭がおかしくなったか?」
波音は男の顔をまじまじと見つめた。相変わらずぶっきらぼうな口調だが、冗談を言っているわけではなさそうだ。なにより、周りの状況を見れば、男の言葉には説得力があった。
波音は再度周囲を見回したが、砂浜にあったはずの海の家も、管理棟も、シャワー・トイレ用の建物も見当たらない。
「え、ここ……どこですか?」
「水明《すいめい》海岸。お前がいたのは?」
「確か、旭《あさひ》浜っていうところです。じゃあ、私が溺れている間に移動して……?」
「んなわけあるか。長距離を移動するほど溺れていたら、人工呼吸程度じゃ助からない」
「……そっか。そうですよね」
では、この状況をどう解釈したらいいのか。大和たちに連絡を取りたくても、波音は携帯電話やトランシーバーの類いを持っていない。ただし、もし身につけていたとしても、水に濡れて使えなくなっているだろう。
驚き言葉を失う波音をよそに、男は歩き出した。大人一人運ぶのにはそれなりの力が要るはずだが、その動きは軽々としている。相当な筋力の持ち主のようだ。
「海岸は遊泳禁止のはずだ。お前、どうやって入った?」
「ゆ、遊泳禁止!? そんなはずないです! 私はジムのみんなと一緒で、他のお客さんだってたくさんいましたし……」
「じむ? 客? 何を言っている……? 溺れて頭がおかしくなったか?」
波音は男の顔をまじまじと見つめた。相変わらずぶっきらぼうな口調だが、冗談を言っているわけではなさそうだ。なにより、周りの状況を見れば、男の言葉には説得力があった。
波音は再度周囲を見回したが、砂浜にあったはずの海の家も、管理棟も、シャワー・トイレ用の建物も見当たらない。
「え、ここ……どこですか?」
「水明《すいめい》海岸。お前がいたのは?」
「確か、旭《あさひ》浜っていうところです。じゃあ、私が溺れている間に移動して……?」
「んなわけあるか。長距離を移動するほど溺れていたら、人工呼吸程度じゃ助からない」
「……そっか。そうですよね」
では、この状況をどう解釈したらいいのか。大和たちに連絡を取りたくても、波音は携帯電話やトランシーバーの類いを持っていない。ただし、もし身につけていたとしても、水に濡れて使えなくなっているだろう。