水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
(一応、ファーストキスだったんだけど……)
いや、男の言うように、人命救助だったのだ。ならば、なかったものと考えていい。男女の性的なあれこれではないのだから。
そう納得しようとしたが、簡単に受け入れられるものではない。初めて唇どうしを触れさせた相手が、見知らぬ男など。
「なに赤くなってんだよ」
「す、すみません……」
もうとっくに成人しているというのに、こんなことで動揺するなんて恥ずかしい。そういう思いが、波音の顔や耳を熱くさせた。
小刻みに顔を左右へと振って気持ちを入れ替えようとしたが、男に抱きしめられているせいか、鼓動は高鳴るばかりだ。
「あの、これどこに向かってるんですか? 自分で歩きますから……」
「溺れた人間がなに言ってんだ。すぐに着くから、まだ休んでろ」
「は、はいっ」
低い声でぴしゃりと言われたので、学校の先生にでも叱られたかのように、波音はおとなしくなった。そして、男は砂浜を抜けて道路へと上がり、その先に広がる街へと進んでいく。
赤煉瓦《れんが》で舗装された道と芝生、漆喰《しっくい》の塗られた白い建物が連なり、いかにも南国の様相だ。行き交う人々も、帽子や露出度の高いカラフルな洋服を身につけていた。
(街の風景も全然違う)
元の海岸では見られなかった光景だ。少し離れただけで、こうも雰囲気が違うものなのか。波音は首を傾げた。
いや、男の言うように、人命救助だったのだ。ならば、なかったものと考えていい。男女の性的なあれこれではないのだから。
そう納得しようとしたが、簡単に受け入れられるものではない。初めて唇どうしを触れさせた相手が、見知らぬ男など。
「なに赤くなってんだよ」
「す、すみません……」
もうとっくに成人しているというのに、こんなことで動揺するなんて恥ずかしい。そういう思いが、波音の顔や耳を熱くさせた。
小刻みに顔を左右へと振って気持ちを入れ替えようとしたが、男に抱きしめられているせいか、鼓動は高鳴るばかりだ。
「あの、これどこに向かってるんですか? 自分で歩きますから……」
「溺れた人間がなに言ってんだ。すぐに着くから、まだ休んでろ」
「は、はいっ」
低い声でぴしゃりと言われたので、学校の先生にでも叱られたかのように、波音はおとなしくなった。そして、男は砂浜を抜けて道路へと上がり、その先に広がる街へと進んでいく。
赤煉瓦《れんが》で舗装された道と芝生、漆喰《しっくい》の塗られた白い建物が連なり、いかにも南国の様相だ。行き交う人々も、帽子や露出度の高いカラフルな洋服を身につけていた。
(街の風景も全然違う)
元の海岸では見られなかった光景だ。少し離れただけで、こうも雰囲気が違うものなのか。波音は首を傾げた。