水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
『水月の国』と曲芸団
 それから数分と経たず、碧はとある建物の裏側へと回り、その敷地内へと足を踏み入れる。その外観の豪勢さに、波音は目を瞠《みは》った。

 数値で表現するのは難しいが、例えるなら――学校の施設が校庭やプール、体育館なども全てひっくるめて入る広さだ。

 そこに、漆喰と青色のペンキで壁を塗られたドーム状の建物が、堂々と構えてあった。ドームの頂点には金色の旗が立ち、周囲に赤、黄、緑、青の風船《バルーン》が浮いている。

「え、お城!?」
「いや、俺の職場」
「こっ……これが職場ですか!?」
「この世界随一《ずいいち》の曲芸団だ。俺はここの団長」
「曲芸団……」

 見るからに西洋に存在する城っぽいのだが、言われてみれば曲芸団――いわゆるサーカスの会場のようにも見える。

 波音が感心しながら頷いていると、碧は団員専用の裏口らしき扉を開き、中へと進んだ。外とは対照的に、一面黒塗りの壁の通路が続いている。空気も、ひんやりとしていて涼しい。

(それにしても、なんで碧さんの職場に来たの……?)

 滉と碧の会話に出てきた、『渚』という人物に身体を診てもらう予定のはずだ。ならば、この先に渚が待っているのか。医者がいるようなところには思えない。

 波音が考えを巡らせていると、こちらに向かって、パタパタと駆けてくる足音がした。直後、曲がり角から金髪の男性が現れる。
< 20 / 131 >

この作品をシェア

pagetop