水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「信じてくださって、ありがとうございます」
「まずは深呼吸しなさい。後でいくらでもお礼は聞くから」
「……はい」
波音は大きく息を吸って吐いた。医者である渚の指示は的確で、それを何度も繰り返すうちに、徐々に気持ちが落ち着いてくる。
渚は聴診器を持ってきて、波音の心臓や肺の音を確認しているようだった。
「奇跡的に心臓も肺も音は綺麗ね。溺れてすぐに気絶して無呼吸になったから、運良く助かったかもしれないわ」
「はい。本当に……」
碧の応急処置がよかったのも要因の一つだろう。海辺でのキス――否、人工呼吸のことを波音は思い出してしまった。
いくら人命救助とはいえ、それを聞いた渚は、きっといい顔をしない。波音は頬を赤くしながらも、黙っておくことにした。
「海からやってきたって話を聞いて、碧を思い出したわ」
「……碧さんが、何か?」
「碧も、元々はこの国の人間じゃないの。今から十年くらい前、同じ水明海岸に、気絶したまま打ち上げられていたのが、碧だったわ」
「えっ」
触診を続けている渚は突然、こぼれ話を始めた。昔を懐かしんでいるのか、微笑んでいる。
「国の警備隊が、巡回中に碧を発見したわ。碧はすぐに病院で手当てを受けて、意識を取り戻したんだけど、自分の名前と年齢以外、一切覚えていない記憶喪失だったの」
「そんなことが?」
「不思議でしょ? この国の天皇がそのことを聞いて、『神が産み落とした子かもしれないから、自分の養子にする』って言い始めて。それで、碧は天皇に生活の支援をしてもらったの」
「まずは深呼吸しなさい。後でいくらでもお礼は聞くから」
「……はい」
波音は大きく息を吸って吐いた。医者である渚の指示は的確で、それを何度も繰り返すうちに、徐々に気持ちが落ち着いてくる。
渚は聴診器を持ってきて、波音の心臓や肺の音を確認しているようだった。
「奇跡的に心臓も肺も音は綺麗ね。溺れてすぐに気絶して無呼吸になったから、運良く助かったかもしれないわ」
「はい。本当に……」
碧の応急処置がよかったのも要因の一つだろう。海辺でのキス――否、人工呼吸のことを波音は思い出してしまった。
いくら人命救助とはいえ、それを聞いた渚は、きっといい顔をしない。波音は頬を赤くしながらも、黙っておくことにした。
「海からやってきたって話を聞いて、碧を思い出したわ」
「……碧さんが、何か?」
「碧も、元々はこの国の人間じゃないの。今から十年くらい前、同じ水明海岸に、気絶したまま打ち上げられていたのが、碧だったわ」
「えっ」
触診を続けている渚は突然、こぼれ話を始めた。昔を懐かしんでいるのか、微笑んでいる。
「国の警備隊が、巡回中に碧を発見したわ。碧はすぐに病院で手当てを受けて、意識を取り戻したんだけど、自分の名前と年齢以外、一切覚えていない記憶喪失だったの」
「そんなことが?」
「不思議でしょ? この国の天皇がそのことを聞いて、『神が産み落とした子かもしれないから、自分の養子にする』って言い始めて。それで、碧は天皇に生活の支援をしてもらったの」