水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「ちょっと、あんた! それ、碧の前で言ったら許さないからね!?」
「えっ……あ、はい。すみません……」
「どうして分かったの? 私、そんなに分かりやすい?」
「ふふっ。そうですね」
「わ、笑わないでよ!」

 あれで好意が悟られないと思っているのか、渚は慌てふためいている。悪いことをしてしまったと内心詫びながらも、波音は堪えきれずにくすくすと笑った。

「波音は……私のこと、気持ち悪いって思わないの?」
「いえ、全然。女性が好きな女性だっていますし、そんなの普通ですよ」
「そう、なのね……。もしかして、あんたのいた世界では、私のような人たちに対して、あんまり偏見とかない?」
「うーん。全くないとは言い切れませんけど……理解は広まってきていると思います」
「いいわねぇ。私もそういう世界に生まれたかった」

 渚は気を取り直すように溜め息を一つついて、「電話機を持ってくるわ」と医務室を出て行った。渚の反応から推察するに、この世界では白い目で見られることがほとんどだ、ということだ。

(世界が違うと、風潮も考え方も感じ方も、変わってくるんだな)

 渚が碧に恋をしたということは、碧は渚を色眼鏡で見ることなく、仲間として大切にしているのだ。まだ出会ったばかりだが、碧の人柄が少しずつ見えてくる。

 この世界での碧は、過去の『碧兄ちゃん』を思い出させる。彼も、渚に出会ったら、きっと優しく受け入れたはずだ。
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