水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「お前には、俺のベッドを貸してやる」
「えっと、いいんでしょうか? 私、床でも構いませんけど……」
「アホか。せっかく貸してやると言ってるんだ。俺はハンモックで寝るからいい」

 波音はほっと安堵の溜め息をついた。それはそうだ。出会ったばかりの男女が同衾《どうきん》など、あり得ない。

 いや、現実世界では起こり得るのかもしれないが、恋人のいたことがない波音にとっては、考えられないことなのだ。

 碧は波音をベッドの縁に降ろすと、クローゼットからシャツと膝丈のズボンを取り出して、波音に手渡した。

「とりあえずは、これを着ておけ」
「ありがとうございます」
「そういえば……お前の服と靴、どうにかしないとな」

 碧は、波音の格好を改めてじっと見つめた。渚に借りたシャツの下は、紺の布地に白と黄色の花柄があしらわれた水着、しかもビキニだ。膝から下は素足のまま。

 観察されるのが恥ずかしくて、波音は身を硬くした。その様子に気付いた碧は、腰を屈めて波音の目を覗き込む。

「なんだ? 今更、照れてるのか?」
「その……こういうのに、な、慣れていないと言いますか……! 緊張するので、あまり見ないでください」
「慣れてない? ああ、なるほど。それで」

 何かに納得したように、碧は口角を上げた。かと思いきや、波音の肩をとんっと押して、ベッドの上に倒す。

 スプリングの反発で波音の上半身が弾んだ瞬間、碧は波音の上に覆い被さりながら、ベッドに乗ってきた。
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