水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「やっ……んっ」
「目、閉じろ。俺をお前の好きな『碧兄ちゃん』だと思えばいい」
「ちがっ! 碧兄ちゃんは、こんなことしません!」
「それは、分からないな。男が何を考えているか、お前が知らないだけだ」
「……そんなっ」
波音の視界が涙で滲む。目の前の男を『碧兄ちゃん』だと思おうとしても、それは現実味に欠ける。なぜなら、もう『碧兄ちゃん』は存在しないのだから。
溢れた涙の雫が一筋、波音の目尻からこめかみを伝って、胡桃《くるみ》色の柔らかい髪に消えていく。それを見ていたのか、碧は数秒間波音の顔を眺めた後、不意に波音の唇を奪った。
「んんっ……? んーっ!」
海岸で触れた唇と同じだ。あの時は息を吹き込んでくれた。人命救助だったから。しかし、今度はそうではない。両手首を頭の上で縫い止められ、波音は抗えなくなっていた。
そのキスは、強引に押しつけるようなものではなく、碧は波音の唇をじっくりと味わうように食んでいる。映画やテレビドラマで見かけるような、恋人同士のキス。
海岸での人工呼吸がカウントされないなら、正真正銘、これが波音のファーストキスだった。
息をしようと口を開けかけると、すかさず碧の舌が滑り込んできた。ぬるりと触れ合う互いの舌に、波音は混乱し、どうしたらいいのか分からず、受け入れるしかない。
「目、閉じろ。俺をお前の好きな『碧兄ちゃん』だと思えばいい」
「ちがっ! 碧兄ちゃんは、こんなことしません!」
「それは、分からないな。男が何を考えているか、お前が知らないだけだ」
「……そんなっ」
波音の視界が涙で滲む。目の前の男を『碧兄ちゃん』だと思おうとしても、それは現実味に欠ける。なぜなら、もう『碧兄ちゃん』は存在しないのだから。
溢れた涙の雫が一筋、波音の目尻からこめかみを伝って、胡桃《くるみ》色の柔らかい髪に消えていく。それを見ていたのか、碧は数秒間波音の顔を眺めた後、不意に波音の唇を奪った。
「んんっ……? んーっ!」
海岸で触れた唇と同じだ。あの時は息を吹き込んでくれた。人命救助だったから。しかし、今度はそうではない。両手首を頭の上で縫い止められ、波音は抗えなくなっていた。
そのキスは、強引に押しつけるようなものではなく、碧は波音の唇をじっくりと味わうように食んでいる。映画やテレビドラマで見かけるような、恋人同士のキス。
海岸での人工呼吸がカウントされないなら、正真正銘、これが波音のファーストキスだった。
息をしようと口を開けかけると、すかさず碧の舌が滑り込んできた。ぬるりと触れ合う互いの舌に、波音は混乱し、どうしたらいいのか分からず、受け入れるしかない。