水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
 それから午後にかけて、団員たちの練習や裏方の仕事、更には建物の内部全体を見学した。外は既に日が暮れている。

 碧は団員に集合をかけ、渚も滉も一緒になって、終業前のミーティングを行っている最中だ。波音も帰り支度を始めた。

「……リハーサルの反省点に関しては以上だ。明日からの三日間、気を抜かず、怪我には十分に注意するように。プロとしての誇りを持って、全ての客を満足させて帰すぞ」
「はい!」

 碧が団員たちに向けて語る言葉に、波音は心を打たれた。団長《リーダー》として、引っ張っていく碧の姿は、やはり格好いいものだ。

 明日から三日間は公演日のようで、詳細なスケジュールを滉が確認した後、一同は解散となった。いよいよ、本番の舞台を間近で見られるのだ。

 裏方としてできるだけの後方支援をしようと、波音も気合いを入れた。

「ねえ、波音はこの後、暇?」

 渚の声に、波音は顔を上げた。期待を込めた目をしている。何か、話したいことがあるようだ。

「え? あ……特に用事はありませんが」
「それなら、一緒に食事でも行かない? 私が奢るわ」

 勝手に承諾してもいいものか。波音は碧を振り返った。

 二人の会話は聞こえていたらしく、碧は無表情のまま「行ってこい。でも、遅くなりすぎるなよ」と言ってくれた。波音は笑って頷く。

「じゃあ、お言葉に甘えていいですか?」
「もちろんよ。じゃあ、行きましょうか」



< 60 / 131 >

この作品をシェア

pagetop