水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
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渚に連れて来られたのは、スパイスの香りと異国情緒が漂う、エスニック風の料理店。店内は赤や紫、黄色の布で装飾され、謎の音楽が流れている。
美味しそうな匂いに食欲をそそられ、波音の胃は朝と同じようにぐうーっと鳴った。
「ふふ、お腹空いているのね?」
「はい。お昼もサンドイッチをいただいたんですけどね……。恥ずかしいです」
「健康的でいいことよ。一日経ってみて、どう? 少しは慣れた?」
二人用のテーブルに向かい合って座りながら、渚がそう聞いてきた。慣れたと言うにはまだ早いが、理解が追いついてきて落ち着いた感はあるだろう。波音は正直にそう話した。
「お酒は飲める?」
「はい。嗜《たしな》む程度ですが」
「じゃあ、ビールも頼むわよ」
料理選びについては渚に任せ、店員に注文を終えると、波音は少しだけ身を前に乗り出した。
「あの、渚さん」
「うん?」
「私に何か、話したいことがあるのでは……?」
「……え、分かる? 伝わっちゃってる?」
「……はい」
伝わってきたというよりは、普通に考えれば、波音を食事に誘う理由はそういうことだ。渚の顔が曇り、波音は身構えた。
(やっぱり、私が碧さんの家にお世話になってること、よく思ってないのかな……)
給料をもらって、洋服代や生活費を含めた礼を返したら、すぐにあの家を出ようと波音は決心した。渚は言い淀んでいる。それほど話しづらいことなのだ。
唾を飲み込んで言葉を待っていると、渚はようやく口を開いた。
渚に連れて来られたのは、スパイスの香りと異国情緒が漂う、エスニック風の料理店。店内は赤や紫、黄色の布で装飾され、謎の音楽が流れている。
美味しそうな匂いに食欲をそそられ、波音の胃は朝と同じようにぐうーっと鳴った。
「ふふ、お腹空いているのね?」
「はい。お昼もサンドイッチをいただいたんですけどね……。恥ずかしいです」
「健康的でいいことよ。一日経ってみて、どう? 少しは慣れた?」
二人用のテーブルに向かい合って座りながら、渚がそう聞いてきた。慣れたと言うにはまだ早いが、理解が追いついてきて落ち着いた感はあるだろう。波音は正直にそう話した。
「お酒は飲める?」
「はい。嗜《たしな》む程度ですが」
「じゃあ、ビールも頼むわよ」
料理選びについては渚に任せ、店員に注文を終えると、波音は少しだけ身を前に乗り出した。
「あの、渚さん」
「うん?」
「私に何か、話したいことがあるのでは……?」
「……え、分かる? 伝わっちゃってる?」
「……はい」
伝わってきたというよりは、普通に考えれば、波音を食事に誘う理由はそういうことだ。渚の顔が曇り、波音は身構えた。
(やっぱり、私が碧さんの家にお世話になってること、よく思ってないのかな……)
給料をもらって、洋服代や生活費を含めた礼を返したら、すぐにあの家を出ようと波音は決心した。渚は言い淀んでいる。それほど話しづらいことなのだ。
唾を飲み込んで言葉を待っていると、渚はようやく口を開いた。