水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
(私はあの時、碧さんになんて言ってほしかったんだろう?)

 『好きな人に似ていたから』とか、『可愛いと思ったから』とか、そういう言葉なら納得したのだろうか。自分の気持ちなのに、うまく咀嚼《そしゃく》できない。

「はい! ビールお待たせしました~!」
「来たわね」
「あ、ありがとうございます」

 店の雰囲気は異国風なのに、店員の対応は日本の居酒屋と変わりない。多少の違和感を覚えながらも、波音はビールのグラスを受け取った。

「じゃあ、波音の歓迎と入団祝いも含めて、乾杯しましょうか」
「はい。ありがとうございます」

 渚は落ち込んだ気持ちを晴らすかのように笑い、グラスを前に差し出した。波音がそれに優しくグラスをぶつけると、微かに心地よい音がする。

 気を取り直し、二人はそれぞれビールを一口飲んだ。日本のそれとは違って少しぬるめだが、苦みが少なくさっぱりしていて、香りもフルーティで飲みやすい。

「おいしい……!」
「よかった。口に合ったみたいね」

 別世界なのに日本と文化や風習が似ていて、波音はますますこの国のことが分からなくなってくる。だが、もう酒の席では気にしないことにした。

 料理も次々と運ばれてくる。明日からは公演ということもあり、飲み過ぎないように制限しながら、波音は渚との会話と食事を楽しんだ。
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