水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
公演開始!
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 翌朝、日が昇り始める前に、波音は目を覚ました。音を立てないよう、静かに階段を降りて、シャワーを浴びるために風呂場へと向かう途中。

 碧の様子を窺うと、彼はハンモックの上で寝息を立てながら眠っていた。波音が持ってきた毛布を律儀に身体に掛けているのを見て、波音は微笑む。

 シャワーを浴び終わって、服やタオル類を洗濯機へと放り込んだ。スタートボタンを押そうとして、ふと手を止める。

 碧が起きてこないうちは騒音になるからと、洗濯は後回しにすることにした。

 着替えを終えて髪を乾かし、次はキッチンに向かう。四角いブレッドを包丁で均等に切り、トースターにセット。あとは焼くだけにしておく。

 冷蔵庫の中身を確認して、卵と野菜、ウインナーを拝借し、波音は調理を始めた。

(家具家電は日本とほぼ同じだ。やっぱり、変な世界)

 思い起こせば、初日に渚から電話機を借りたときもそうだった。電化製品が波音にとって馴染みのあるものというのは、非常に助かる。

 スマートフォンやタブレット端末のような電子機器は普及していないようだが、それでも、とりあえず生きていくのには十分だ。

 別世界とはいえ、幸運な状況に微笑んでいると、碧が起きてくる物音がした。
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