水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
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 海上の曲芸団『睡蓮』の公演は、順調なスタートを切った。一日目から、観客席は満席状態。三百六十度を見渡せる円形の巨大ステージに、今は滉を含めた空中曲芸師たちが出演している。

 彼らは、色鮮やかで煌びやかな衣装を身に纏っており、それが動きに合わせてひらひらと動く。練習着の時とはまた異なるその華麗さに、波音は舞台袖で待機しながら口を開けた。

 滉の担当は空中ブランコ。支える方ではなく、技を披露する方だ。軽々と回転しながら飛んでいるように見えるが、当然、そこに命綱のような救済措置はなく、危険と隣り合わせ。

 もしも失敗したらどうなるかは、一目瞭然だ。滉がどれだけの練習を重ねてきたのかが分かる。

「すごすぎる……!」

 ひやひやする一方で楽しませてくれる。技が成功すると、波音は観客と一緒になって拍手をした。

 ステージから伸びるたった一本の通路を通って、出番を終えた滉たちが舞台袖へと戻ってくる。波音は他の裏方たちと一緒に、給水ボトルやタオルを渡して労いの言葉をかけた。

「滉さん、お疲れさまでした……! 本当に素晴らしかったです!」
「……そういうことを言っている暇があるなら、何か一つでもできることがないか、探してこい」
「あ……はい。すみません。善処します」

 相変わらず、冷ややかな態度しか返ってこない。ステージ上ではあんなににこにこして、観客に愛嬌を振りまいているというのに。

 ただ、言われていることはもっともだ。波音は滉に反論することなく、頭を下げて、他の場所へと移動した。
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