水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「その、お前の知っている碧と、俺が同じかもしれないって……どういう意味だ?」

 ようやく、碧が本題を切り出した。この状況で彼に話すのは、碧に半ば「好きです」と告白をしているようなもので、波音には大変な勇気が要る。

 だが、変な考えだと馬鹿にされようとも、波音は彼に話しておきたいと思った。

「言っていませんでしたが、私の好きな『碧兄ちゃん』は、十年前に亡くなっているんです。交通事故で」

 まさかの吐露に、碧は信じられないとでも言いたげに、目を丸くして波音の顔を見た。

 亡くなった相手に対しての恋心をずっと引きずっていることも、茶化すことなく受け入れてくれている。波音の話を真剣に聞いてくれている証拠だった。

「そう、だったのか……。その件については、からかうようなことをして、悪かった。でも、どうして、それで俺に結びつく?」
「名前だけじゃなくて、二人は年齢も同じなんです。それに、碧兄ちゃんが亡くなった頃、碧さんはこの世界に来ているみたいで、時期が重なります。でも、こう考えた一番のきっかけは、この前碧さんが寝言で『兄貴』って言っていたことです」
「それが、大和ってやつかもしれない、と?」
「はい。深水大和。ものすごく仲の良い兄弟だったんです。何かちょっとでも、ピンと来ませんか?」

 碧は額に手を当て、難しい顔をした。暫し思い出そうと試みていたようだったが、結局は首を横に振った。それを見て、波音もしゅんと萎《しお》れる。
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