クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
目的地に向かって歩き出すと千石くんが手を繋いできた。
そうね、恋人同士だもんね。私は素直にされるままにする。
すると、千石くんがさらに提案してきた。

「あの、真純さん、今日一日名前で呼んでもらいたいんです」
「へ?」
「俺のこと、孝太郎って呼んでもらえませんか?」

思い切った提案なのだろう。千石くんは真剣な表情だ。気圧されて私は頷いた。

「別に……いいけど」

嘘。本当はよくない。
名前で呼ぶなんて恥ずかしくて死にそうだ。

「じゃ、じゃあ!私のことも真純って呼び捨てにすればいいんじゃない?」

若干ヤケ気味に提案すると千石くんが慌てる。

「そ!それはダメです!真純さんは真純さんです!敬語もとれません!」
「なんかそれ、フェアじゃなくない?」
「フェアですよ!それにこれ以上、俺に緊張を強いないでください!」

千石くん、もしかして今緊張してるの?いつも強引で余裕たっぷりの千石くんが?
繋いだ手が少し冷たいので、私は指先で彼の手の甲をさすった。

「孝太郎」

呼んでおいて私の鼓動が大きくなる。どくんどくんという振動が繋いだ手を伝わって、響いてしまいそう。
千石くんも息を詰めた。

「これでいい?」
「いいです。嬉しいです、真純さん」

千石くんのふにゃふにゃの笑顔は、隙だらけで、子どもみたいで、鳴り響いていた私の心臓をきゅっと痛ませた。
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