クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
土曜の午後、といっても日の落ちかけた16時近く、私はキッチンでコーヒーを淹れていた。
リビングでは、換気のために開け放たれた窓から千石くんがベランダを見ていた。投げてあったくしゃくしゃのワイシャツとスラックスを身につけて、気だるげに窓枠に寄りかかっている。

「コーヒー、よければ飲んで」

小さなテーブルにマグを置くと、ありがとうございますと返事がきた。

私も千石くんも昨夜から飲まず食わずだった。
死に物狂いで抱き合い、束の間まどろみ、また抱き合う。途中、ベッドから出るのを千石くんは許してくれなかった。最後はふたりともくたびれ果て、裸のまま互いの身体をかき抱いて、猫のように丸まって眠った。

「この木……」

千石くんがベランダで葉を震わせるレモンの木を指差す。

「レモンよ。春には花が咲くみたい」
「実ができるんですか?」
「わからない。花は咲いても実はできないことも多いってネットで読んだ。できても青くて小さく終わってしまうこともあるって」

鉢植えだからね。付け足した言葉が言い訳みたいに聞こえた。鉢植えだって上手に育てればレモンは実るのだろう。私にはそのやり方が皆目検討もつかないだけで。

レモンはまるで、私たちみたい。
花は咲くけど実らない。

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