クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「真純さん、待たせてしまい申し訳ありません。迎えにきました」

孝太郎が微笑み、私の前に片膝をついた。

「結婚してください」

差し出されたのは薔薇の花と、小さな箱に入った指輪。美しいカットのダイヤモンドのついたものだ。

「何やってるの……、ここ会社よ」
「知ってます。だから、昼休みにみなさんに協力してもらいました」
「こういうのは嫌いだって……言ってるのに……」

情けなくも涙が出てきてしまい、そこから先は言葉にならなかった。
孝太郎の手から花束と指輪の小箱を受け取ると、オフィス中からわぁっと歓声があがる。

「イエスでいいですね」
「イエス、だけど、……サプライズ、……きらい」

引っかかるように答える私に、山根さんが横から顔を出す。

「千石さん、先月から私とやりとりしてたんです。あ、ビジネスパートナーとして契約のお話ですよ」
「俺の立ち上げた会社のアジア拠点を作るので、富士ヶ嶺に協力を仰いでいたんです。山根さんとはその契約の関係で」

アジア拠点?っていうことは孝太郎はそのために帰国してきたの?

「千石さんが真純先輩にプロポーズしたいから場所を整えてほしいって言うので、企画しました」
「薔薇の花は私が手配したんですからね!」

山根さんの後ろから横手さんも言ってくる。
どうやらたくさんのご協力で、この恥ずかしすぎるプロポーズは成り立ったらしい。
恥ずかしくていたたまれなくて、でも嬉しくて幸せで涙がまた溢れた。

孝太郎が私を見つめる。
キラキラ光る鮮やかな瞳は、私が見できたものの中で一番美しいものだと思う。彼の魅力が詰まった少し野蛮で透明でパワーの塊のような瞳だ。
大きな手が私の頬を包む。

「アジア拠点は東京に作ります。新婚生活のスタートは同居で切れそうですね」
「気が早いんだから……」

東京タワーで出会った青年は、あの日私に魔法をかけた。私の心を抱きしめてくれる優しい魔法。
そして、その魔法は今でも続いている。
今度は私からも魔法をかけてあげる。

「孝太郎、ありがとう。大好きよ」

ずっと一緒にいられる魔法を、毎日ささやいてあげる。



<了>



次ページから短い番外編です。
よろしければどうぞ。
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