クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
番外編・その晩のお話
『番外編・その晩のお話』


「あ~、恥ずかしくて明日から会社行けない~」

私はシーツに顔を埋めて、呻いた。

「なんでですか?」

横で孝太郎が、私の裸の背を撫でて言う。
深夜のホテルの一室、常夜灯がシーツを淡く照らし、大きく開けた窓から都心の夜景が見えた。ここは、孝太郎が日本滞在中に使っているホテルだ。

「あのね、あんなプロポーズ……明日には社内中の噂よ」

日中の社内公開プロポーズを思いだすと頭が発火しそうだ。総務の面々に囲まれ、ド派手はプロポーズ大作戦だった。

「いいじゃないですか。業務には差しさわりないし、俺たちふたりがお世話になっている人たちに祝福してもらえて俺は嬉しかったですよ。幸せはみんなにお裾分けした方がいい」

ああもう、彼にはちょいちょいこういうところがある。ワールドワイドな価値観は、私には時々ついていけない。フラッシュモブを仕込まれなかっただけマシと思った方がいいのかしら。

「社長の耳に入ったら……はぁ~」

私は枕にぐりぐり顔を押し付けた。
社長も驚くだろう。自分で推薦した未来の若手女性課長が実は長男と付き合っていたなんて。

「そこは文句言えないんじゃないですか?というより、良い女性を選んだって俺の株があがりそうですけど」
「私の昇進って、社外的に『女性が活躍しやすい職場』アピールでもあるのよ。それが実は長男の嫁でしたなんて、社長も格好つかないでしょう」

私の課長昇進、なくなっちゃうかも。まあ、それはいいんだけど。ちょっと身に余り過ぎる待遇だし。でも、これから結婚の許しをもらいにいかなければならない方たちにどんな印象を持たれてしまうだろう。
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