クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「フリーハグ、失礼しますね」

彼の腕が私を抱き寄せ、その胸に抱きとめてくれた。温かい温度に余計泣けてくる。

「横顔が泣きそうだったんで、声かけちゃいました。変な意味はないですけど、今はちょっと誰かの体温がいるかなーなんてお節介です」
「本当に……お節介……」

私は泣きながら、その胸にそっと額をつけた。彼の大きな手が私の背を撫でる。冷房で冷え切っていた背中に彼のてのひらは温かい。
涙が出なかったんじゃない。私は泣くパワーすら失っていたのだとようやく気づいた。

「人生が、重たくて……たまに耐えきれないときが……あるの。……それが、今日、だったの」
「ええ」
「きっとみんなそれぞれに、人生は重たい……だから、私も、……泣かないようにしてたんだけど」
「ええ」

彼は無暗に肯定も否定もしなかった。ただ私のぽつりぽつりと出る断片的な言葉に頷き、涙が止まるまでそうしていてくれた。

やがて、街にゆっくりと宵闇が降りてくる。タワー内の照明が目立ちだし、私はくっついているのが気恥ずかしいような気分になった。
そっと身体を離すと、彼は透明な瞳で私を見つめていた。
綺麗だけど、綺麗なだけじゃない。ちょっと野生的で野蛮な目だ。
世界を旅してきた人はこんな目をするのだろうか。
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