キミへの想いは、この声で。
「ね?そうでしょ?……だから、傷つけて。
佐藤さんのこと」
「……わかった。茜っちのこと傷つける」
俺は渋々頷いてみせた。
……茜っちのこと、裏切りたくない。傷つけたくない。
だけど、茜っちのことを考えれば、こっちを選ばなければいけないんだ。
辛いけど……、今の俺にはこれしか選ぶ道がないんだ。
俺は何度もそう言い聞かせた。
そんな俺に、またしても耳元で囁く女。
「明日の朝に決行して。
間違っても、私に脅されたなんて言わないでね。
私はふたりの様子をしっかりと監視しているから。
妙なマネをしたら、この約束は即白紙だからね」
「……わかってる」
俺は眉をひそめたまま頷くと、すぐさま階段を駆け上った。
「……茜っち」
一階と二階のあいだの踊り場で立ち止まった俺の頭には、茜っちとふたりで過ごした日々が、走馬灯のように流れてきて。
俺はそれを掻き消すかのように、また階段を上り始めた。