覚悟はいいですか

和解の条件はーーー

堂嶋公彦は今後一切紫織と関わること、会うことを禁じられ、父親がその監視に責任を持つこと
紫織は秘書課からの異動と、織部会長の認めた相手でなければ恋愛も結婚もしてはならないというものだ

堂嶋はたいした制裁を受けず、紫織にばかり制約を強いる内容に納得いかず、眉をひそめると
「そうじゃない」と紫織は言う

「会長秘書でいると堂嶋と顔を逢わせる可能性がどうしても残るの。実際、今日会ってしまったし」 

「そうかもしれない。でも恋愛は自由だろう?」

「礼の言う通り。でも私の恋愛が制限されると思ったから、堂嶋側もやっと折れたの。
それも会長が認めた相手じゃないといけないなら、公彦だって認められないと私とお付き合いはできないってことなのよ」

自身の自由も犠牲にしなければならない程、追い詰められられていたのかと切なくなる
だが紫織は感謝していると微笑んだ

「もともと結婚願望もなかったし。秘書をやめないといけなかったのは辛かったけど、今は今でやりがいも感じてるから」

「…紫織は恋したくないのか?」

「う~ん、憧れないこともないけどね、今は仕事が楽しい。それに……」

「なに?」

「恋愛しちゃいけない理由は会社の制約だけじゃないの」

彼女は話しにくそうに、瞳を揺らす。辛抱強く続きを待っていると、つないだ手に力がこもる。懸命に言葉を選んでいるようだ

「あのね、ふざけてるとか思わないでほしいのだけど…」

「うん、思わないよ。紫織を信じる」

「ありがとう。あのね……」

ふうっと大きく息を吐いてから、決意したように顔をあげて言い切った

「私に関わると、その人は不幸になる。だから私は男の人と親しくしたらいけないの」
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