覚悟はいいですか
滲む視界から公彦の影が消え、首の締め付けがなくなると、一気に肺へと酸素が流れこんで逆にせき込んだ
苦しい息をどうにか整えていると
「大丈夫ですか?」
と、聞き覚えのある、でもめずらしく気づかわし気な声がして思わず見上げた先に、
一瞬知らない人がいて驚く
けど、こんな時も感情を見せないその人が、眼鏡を外した志水さんだとすぐ気が付いた
頷いて、体を起こそうとする背にサッと手を添え、ゆっくり起こしてくれる
起き上がるだけで一仕事終えたような疲労を感じた
フウっとため息をつき、お礼を言おうと顔をあげた時、喧嘩のような怒鳴り声がする
「落ち着け、礼!それ以上はお前がすることじゃない!!」
「離せ!離してくれ、友和さん!」
「そいつにお前が殴る価値なんかねえ!それより紫織ちゃんを!!」
振り向くと、ずっと待ち望んだ愛しい人がいた・・・
「紫織っ!大丈夫か?」
真剣な顔をしてこちらに駆けてくる
大丈夫と安心させたくて笑みを浮かべると、礼もホッとしたような笑顔になった
けど、私の顔や首元を見ると、途端に強張った表情になる
手を震わせながら、壊れやすいガラス細工を扱うように優しく頬に触れた
「遅くなって、ごめん。怖い思いさせてごめん。ごめんな」
ゆっくりと抱き寄せられ、後悔の滲む声で囁く
首筋と頬にそっと優しいキスを落とした
私は礼の腕の中で力の入らない首を小さく左右に振った
「礼のこと、信じてたから、絶対来てくれるって。私のこと、諦めないんでしょ?」
わざと茶化して見上げれば、ちょっと驚いてから困ったような笑顔になった
その顔を見て、ああ、やっと礼のそばに、自分のいるべき場所に戻ったと実感する
私は幼子のように安心し、胸いっぱいの幸福を感じながら、意識を手放したーーーーーー