DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
おれは、自分の胸の高さにある犬の頭の、人間とは形の違う両目をじっと見下ろしながら、背筋や胃の底がザワザワと冷えていくのを感じた。
そのザワザワが何かって、違和感だ。
チカラへの恐怖が、こいつには……こいつらにはないのか?
犬がおれをなだめるように、長いまつげがピョンピョン出てる目元を緩めた。
「言いたいことや訊きたいことがいろいろありそうな顔だな。だが、ここで油を売ってたって、大した答えは得られんぞ。
早く総統のところへ行くといい。海牙、奥の間だ。ご一行を案内してやれ」
「奥の間ですか。あの場所がいちばん、結界がよく働くんでしたっけ?」
「ああ。地形の関係で、そこが龍気の通り道に当たるらしい。総統はついさっき着かれたんだが、ギリギリの状態というかなあ
……あのかたも人間で、一人の父親なんだと実感したよ」