DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
犬のおにいさんと守衛に見送られて、海牙を先頭に、おれたちは足早に庭を突っ切った。
ごく普通の家にお邪魔するみたいに、玄関で靴を脱ぐ。
上がり框《かまち》で、たまたま、姉貴のくるぶしが見えた。
捻挫《ねんざ》したところをぐるぐる巻きにテーピングしてある。
姉貴がバイクに乗るときに愛用するレザーパンツのつやつやした黒色との対比で、医療用テープの極端な白色は妙に目立っていた。
おれらはやっぱり無茶ばっかりだ。
慌ただしげな人々とすれ違った。
ボソボソ交わされる会話が、聞く気はなくても耳に飛び込んでくる。
さよ子がいなくなったこと、それ自体よりも、問題は総統の様子みたいだ。
屋敷は、表から見えていた以上に広かった。
純和風の庭を巡る回廊があって、さらに奥にも建物がある。
屋根瓦をかぶった、二階建ての洋館風。窓の並びからして、ホテルみたいに単調な造りだ。