DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
やがて、行く手が突き当たりになった。
見事な南宗画の襖《ふすま》だ。
ちゃちなレプリカとかじゃなくて、まともにその画風を勉強した本物の画家が描いたんだろう。
風格っつうか、筆遣いに込められた迫力が違う。
襖の存在感がすごすぎた。
だから、そこに一人の男が立ってるのに気付いたのは、三拍くらい遅れてからだった。
ピシッとしたスーツ姿の、白髪の老紳士だ。折り目正しくて、影みたいな雰囲気。
付き人だなって、直感的に思った。
おれの予想は正しかった。海牙が紹介した。
「総統の執事の天沢《あまさわ》さんです」
天沢氏は、背筋の伸びたお辞儀をした。
礼儀のためのふりをして、顔色を隠したように見えた。
「皆さまをお待ちしておりました。総統は中におられます。早く、お話を」
天沢氏は面を上げると同時に襖に向き直って、スッと引いた。