冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
*
城仕えには男女様々な仕事や役割がある。中でも夜明け前から動き出すのは、女中や下働きの女たちで、まだ皆が寝静まっている間に無人の大広間や廊下などの掃除を、なるべく音を立てずに行う。貴人の部屋などは決められた侍従や侍女が掃除を受け持つが、それ以外のいわば共有の場の清掃は、女中たちに課せられた重要な仕事のひとつで、離宮に関してもそれは同じだった。
やがて、仕事をすませた女中たちがぞろぞろと列をなして衛兵の横を通り過ぎ、離宮から城本館へと戻っていく。その最後尾に、やや緊張地味に背中を丸めながら、木バケツを抱えて歩く新人らしき若い娘の姿があった。皆と同じ、くすんだ茶色のお仕着せに、埃よけの同系色のスカーフで髪の毛をすっぽりと覆っている。
離宮を出て、城に入り使用人用の長い廊下を進んでいたが、その新人娘はひとつ目の角で曲がり、音もなく列を抜けた。薄暗い視界の中、木バケツを床にそっと置き、安堵したように胸を撫で下ろす。
「フィラーナ様」
すぐそばで名前を呼ばれ、娘の肩がビクッと跳ねた。振り返ると、近衛騎士団の黒い騎士服に身を包んだ茶褐色の髪色の若者が立っている。服の色が周囲と同化していて、すぐには気づけなかったのだ。
「ユアンさん、おはようございます」
「兄の指示でお迎えに上がりました。こちらへ」
踵を返して先に進むユアンのあとに、フィラーナも静かについて行った。
城仕えには男女様々な仕事や役割がある。中でも夜明け前から動き出すのは、女中や下働きの女たちで、まだ皆が寝静まっている間に無人の大広間や廊下などの掃除を、なるべく音を立てずに行う。貴人の部屋などは決められた侍従や侍女が掃除を受け持つが、それ以外のいわば共有の場の清掃は、女中たちに課せられた重要な仕事のひとつで、離宮に関してもそれは同じだった。
やがて、仕事をすませた女中たちがぞろぞろと列をなして衛兵の横を通り過ぎ、離宮から城本館へと戻っていく。その最後尾に、やや緊張地味に背中を丸めながら、木バケツを抱えて歩く新人らしき若い娘の姿があった。皆と同じ、くすんだ茶色のお仕着せに、埃よけの同系色のスカーフで髪の毛をすっぽりと覆っている。
離宮を出て、城に入り使用人用の長い廊下を進んでいたが、その新人娘はひとつ目の角で曲がり、音もなく列を抜けた。薄暗い視界の中、木バケツを床にそっと置き、安堵したように胸を撫で下ろす。
「フィラーナ様」
すぐそばで名前を呼ばれ、娘の肩がビクッと跳ねた。振り返ると、近衛騎士団の黒い騎士服に身を包んだ茶褐色の髪色の若者が立っている。服の色が周囲と同化していて、すぐには気づけなかったのだ。
「ユアンさん、おはようございます」
「兄の指示でお迎えに上がりました。こちらへ」
踵を返して先に進むユアンのあとに、フィラーナも静かについて行った。