冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない


 面会の件でフィラーナの部屋を訪れたレドリーからウォルフレッドの様子について聞かされたのは、襲撃事件から丸一日経過した、昨日の夕刻のことである。

『お命に別状はありません。ですが、困ったことになりまして』

『やはり、どこかお怪我を……?』

 心配そうに、フィラーナは眉根を寄せた。落馬の衝撃と痛みは相当なものだと、同じ境遇の兄を近くで見ていたので身に染みてわかっている。

『いえ、お怪我も大したことはありません。しばらくは動けないでしょうけれど』

『そうですか……良かった……』

『ですが、今は誰ともお会いになりたくないそうです。……特にフィラーナ様には』

『え……?』

 ウォルフレッドの容態が安定していると聞き、一旦気持ちが明るくなったフィラーナだったが、そのあとに続いたレドリーの発言に、今度は一気に奈落の底まで突き落とされるような気分に陥った。返す言葉もなく、うなだれるように俯くフィラーナに、レドリーは穏やかな眼差しを向ける。

『あなた付きの侍女から、昨日のあなたの様子について聞きました。何か事情がおありなのでしょう。あなたのためにも、私としては即刻、殿下に会わせてさし上げたいところなのですが、陛下や殿下の許可がなければ、まだ候補者にすぎないご令嬢を勝手に離宮から城へお招きすることができません。殿下は決してこちらにお渡りにはならないでしょうから』

『私はどうすれば……』

『殿下のお心が変わるまで、お待ちいただくしかありません。襲撃の首謀者もまだ捕まっていませんから』

『そう……ですか……』

 危険な目に遭ったウォルフレッドのことを考えれば、今は誰とも顔を合わせたくないと思うのは当然のことなのかもしれない。だが、このまま会えない日々がいつまで続くのだろうと思うと、胸の奥が苦しくなる。ただ元気な顔を一目でいいから見たい。そして、できることなら、この前のことを謝りたいーー。

『どうしても会えませんか……?』

『残念ながら、今は手段がありません』

『令嬢でなければいいのですか……?』

『え?』

『私が、この城の使用人だったら、外に出られますか……?』
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