冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない


 夜明け前の薄暗い廊下を、はぐれないようにユアンの後について足早に進む。

 この計画を聞いて、レドリーは当然の如く難色を示したが、「すべての責任は私が負います」と言うフィラーナの熱意に根負けし、渋々首を縦に振った。そして、待ち合わせの場所を決めて、そこにユアンを迎えに寄こすことを約束してくれた。このお仕着せを用意してくれたメリッサは、まるで今から冒険に出る者に対するようにフィラーナを激励してくれた。掃除女中に紛れるといっても、機会を見計らって物陰から出て最後にその列にさりげなく加わっただけなのだが、まさかこの中に変装した令嬢がいるとは衛兵も気づかず、なんとか欺くことができたのは幸運の極みだ。

 いくつか途中で階段を昇り降りし、廊下を幾度となく曲がり、気づけば徐々に明るい場所に出ていた。石造りの壁窓から朝日が射し込み、フィラーナはわずかに目を細める。

「ここは我々騎士団の営舎の一角です。本来なら女人禁制なのですが、騎士団長には話を通してあります」

 フィラーナが、なぜここに、と首を傾げていると、とある部屋の前でユアンが止まった。ノックのあと、入室をすすめられ、フィラーナは戸惑いながら足を踏み入れる。

「ようこそ、無事においでくださいました。その恰好、よくお似合いですよ」

 少し、からかうような口ぶりで優しく出迎えてくれたのは、扉近くに立っていたレドリーだった。

「レドリー様、この度はありがとうございます」

「さあ、中へ」

「はい」

 フィラーナは前方へ視線を向けた。その部屋は広く明るく、白い壁に朝の陽光が柔らかく反射している。簡素だがいくつかの重厚そうな調度品に、応接室に置いてあるようなソファとテーブル。そして、窓際には執務机のような物が置かれていて、ひとりの長身の男性がこちらを背にして、やや前かがみになるような姿勢で立っていた。何か机に広げて覗き込んでいるような恰好にも見える。

 白銀の髪が、朝日を浴びて煌めいている。
< 109 / 211 >

この作品をシェア

pagetop