冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「おい、泣くな。……悪かった」

「……いいえ、そうではありません……。殿下の意地悪な言葉が聞けて、お元気なのがわかって、いつもの殿下だと思うと安心して……」

 次々と溢れてくる涙を手で拭いながら、眉を下げて微笑むフィラーナに、ウォルフレッドは不機嫌さと戸惑いを露わにして、少しの間絶句した。

「……何だ、それは……。誉められてるのか、けなされてるのか、どっちだ。お前の中で、俺は一体どんな立ち位置なんだ……」

 語尾がため息まじりになる。

 ふたりのやり取りを聞いて、噴き出しそうになったのはレドリーだ。

「いやぁ、あなた方は面白いですね。ではあとはおふたりで。フィラーナ様、後ほどお迎えに上がります」

「あ、でしたら私も戻ります。これ以上、お手を煩わせるにはいきませんし。それに、殿下のお顔を見られただけで満足ですから」

「待て」

 出口に向かいかけたフィラーナの腕を、ウォルフレッドが掴んだ。

「俺は満足していない」

 驚いてウォルフレッドに向き直っている間にも、レドリーは部屋から姿を消している。

 ウォルフレッドは腕を離すと、ソファに再び座り直し、横を指し示した。

「とりあえず、ここに座れ」

 フィラーナは躊躇したが、ひとりでは帰り道がわからず、たちまち迷子になってしまうだろう。仕方なく、言われた通りに腰を下ろす。
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