冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 だが、フィラーナを引き留めた当の本人は、無言のまま腕組みをしながらソファに背を預け、横にチラリと視線を寄越したあと、すぐに正面の壁の方を向いてしまった。フィラーナは彼の様子をそっと窺ったが、考え事をしているのか怒っているのか、その端正な横顔からは相変わらず感情を読み取らせてはくれない。

(レドリー様の話では、寝込んでると思ってたけど、ちゃんとご自分で立たれてたし、どういうこと……?)

 落馬した、という情報は事実だと思う。では、目の前の人物は、本当はどこか具合が悪いのに無理をしているのではないだろうか。

 心配するあまり、わずかな異変も見逃すまいと、フィラーナがまじまじとその横顔を見つめていると、ウォルフレッドがようやく首の向きを変えてフィラーナを視界に映した。

「どうした。俺の顔に何かついているか?」

「あ、いいえ、そういうわけでは……。あの、殿下、お身体は……動かれて、もうよろしいのですか? レドリー様のお話では、殿下はしばらく動けない、と……。申し訳ありません、大変な時に来てしまって……」

「まったくだ」

 手短な、かつ冷淡な返答に、フィラーナは返す言葉もなく、口をつぐむ。

(そういえば、殿下は私に会いたくないと仰ってたんだっけ……。きっとすごく怒ってらっしゃるんだわ)

 そのため、自分だけここに残るように言われたのだ。だが、それも覚悟の上だったので、俯いて静かにウォルフレッドの叱責を待つ。

「レドリーが大げさなだけだ。まぁ、あいつからすると、俺にはもう少し自室でおとなしく安静にしていてほしかったのが本音だろう」

 フィラーナは少し驚いて顔を上げた。ウォルフレッドの口から出たのはフィラーナを咎める言葉ではなく、単に質問の返答だった。口調も落ち着いていて、別段怒っているようには感じない。

「それに、落馬とは少し違う。俺が自ら落ちた」

「えっ?」

 思いがけない発言に、フィラーナは思わず目を見張る。
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